「すごーい!」


なんなの、この景色―――

一望したパリの町並みの美しいこと。

まるで、そこから見える景色自体が、芸術作品のような息を飲む美しさ。

そこかしこから聞こえる感嘆の声にも、納得せざるを得なかった。



横を見ると、リリィもきっと同じ気持ちなのだろう。

彼女もひとしきりその景色をただ、ひたすら黙って眺めていた。


「この街にはさ、物語があるよね」

「物語?」

「うん。あたしさ、物書きになりたいって言ったでしょ。この街はそんなあたしの本能を思い切りくすぐってくれるってことよ」


そういうリリィの瞳は、キラキラ輝いていて、その横顔は、今まで見た中で一番美しかった。

でも、昨日のような馬鹿らしい嫉妬心は、もう芽生えてこなかったんだ。


「いつか、リリィの書くパリの物語を読んでみたいな」

「あら、サイン入りでプレゼントするわよ」


あっけらかんと言うリリィと目が合って、二人で声をあげて笑いあった。