「そう、貧血とは言っても、鉄分を補給すればいいような類のものとは違うんだ。日本でも難病指定されてる。簡単に言えば、骨髄の造血能力が低下して、体が必要な血球を作り出せなくなってしまう病気なんだ」
「そんな……でも、治療法がない不治の病ってわけやないんやろ?」
ジュンも必死に食い下がる。
「あぁ、かなり重症だった兄貴の場合、免疫抑制療法は効かなくて、もう助ける手立ては、骨髄移植しかなかったんだ。アキ兄も僕も、兄貴とは適合しなかった。非血縁者のドナーも待ち続けたけど、兄貴に適合するのは見つからなかったんだ」
もし万一ドナーが見つかっても……
再生不良性貧血の場合、非血縁者間の骨髄移植は成功しても、長期生存率は60%台だ……。
「兄貴はたった21歳で、その短い命を終えたんだ。子供だった僕は何も出来なくて、ただ、兄貴が苦しんでる姿を見てることしか出来なかった」
ハルは右手をギュッと握り、その拳を大きな左の掌で包んだ。
悔しそうな表情を見ていれば、その無念さは充分にわかった。
14歳で人の死を、まして慕っていた兄の死を受け入れるなんて、到底難しいに決まってる。