アキの匂いを胸いっぱいに吸い込んだら、愛しさが溢れてきた。
少し腕が緩んだすきに、アキの顔を見上げる。
至近距離で目が合い、心臓が音を立てて脈打つのがわかった。
「アキ、私……」
零れた言葉たちは、塞がれた唇の向こう側へと吸い取られてしまった。
一瞬、頭が真っ白になる。
ほんの数秒もなかっただろうに、永遠とも思える時が過ぎたように感じた。
ゆっくりと離れていくアキの顔をただ呆然と見つめていた。
言いたいことはたくさんあるのに、言葉は出てこなかった。
「アキ……」
「レイ、またな」
最後にもう一度、アキは私の頭に掌をのせると、一つ大きく優しく撫で、そして手を離し「じゃあ」と手をあげた。
私はその場に立ち尽くしたまま、ただ、アキの背中を見送ったんだ。