「おはよう」


声を掛けたのは私だ。

私が起きて30分後に、彼女は起きてきた。

リリィより先に起き、身支度を済ませた私は、二段ベッドの上の彼女が起きるのを待っていたのだ。

彼女は既に身支度を整えている私を見て、少し驚いていたけど、無言でシャワールームへと進もうとした。

多分、私がもう出発すると思ったのだろう。

私は、慌ててリリィの左手首を掴んだ。

リリィは、かなり驚いた顔で、私を見ていた。


「昨日はゴメン。よければ今日一緒にパリを回って欲しいんだけど……」


彼女の目は見れず、俯いたまま言う私に、リリィは、そっと掴んでいた手を外して言った。


「軽く二日酔いだからシャワーくらい浴びさせてよ。朝ごはん、あたしの席キープしといてよ。5分で行くから。あっ、あたしカフェオレね」


思わず顔を上げると、バツが悪そうな、だけどちょっとはにかんだリリィの顔があって、あたしは思わず笑顔で「OK」と返した。



自分から他人に歩み寄るなんて、今までの人生でなかったかもしれない。

でも、どうしてもこのままリリィと別れたくなかったんだ。

こんなに他人に興味を持ったのも初めてで。

自分でもどうしたらいいか分らなかったけど、リリィの顔を見たら思わず言葉が出ていた。


シャワールームに向かうリリィの背中を見つめて、私は肩の力が抜け落ちるのと同時に、なんだか心が温かくなるのを感じた。