「そう、ならいいけど」


リリィに、私の気持ちがどれくらい伝わったかはわからないけど、彼女はそれ以上、そのことには触れなかった。

表情はあっけらかんとしてて、さっきの不機嫌さはもうなかった。





リリィは、今まで私の周りにはいなかったタイプだ。

こんなにズケズケ物を言って、自己中で、なのに嫌味がない。

堂々としてて、芯が真っ直ぐ強そうで、自信満々で。

今まで友達らしい友達もいなくて、上辺の付き合いしかしてなかったからかもしれないけど、こんな風に語り合うなんて初めての経験で少し戸惑ってもいたんだ。





「ねぇ、リリィはなんで一人で旅してるの?」

「あたし?あたしは夢のためかな」

「夢?」


リリィは、どこか遠くを見つめるように、空を見上げていた。

夕方からの曇り空は相変わらずで、星なんて見えやしないのに、それでもパリの夕闇はどこか憂いを含んでいて、情感溢れる感じがするから不思議だ。



「あたしさ、将来物書きになりたいんだよね。ってかなるんだけどさ。いろいろ人生経験は豊富な方がいいでしょ。だからね」




そう言うリリィは、自信に満ち溢れていて、なんだかやけに眩しかった。

私の周りにはこんなに堂々と“夢”を語る人なんていないから。



でも、それと同時に、ものすごく冷めた自分もいたんだ。

自慢げに夢を語るリリィに、なんでか無性に腹が立って仕方なかった。