ユースに戻って来た。
蒸し暑い部屋の中は、私とリリィの二人きり。
六人部屋だけど、珍しく他のルームメイトはいないようだ。
確かにこの蒸し暑さは耐え難いかもしれない。
クーラーなどない貧乏旅行者にとっては、夏のヴェネチィアは、かなり過酷な場所だ。
それでも、四人で来れてよかったと、心の底から思う。
この街で見た景色も、会話も、歌も全てが宝物のように思えるから……
窓からはかすかに波の音が聞こえ、鬱蒼とする暑さを少しばかり和らげていた。
そして、月と星たちだけが、静かに私たちを覗いている。
煌く星たちが、明日も最高の青空を予感させた。
空きベッドに、壁に背中を預けて二人並んで座った。
「ねぇ、レイ」
「ん?」
もう涙は止まっていたけど、リリィの表情はなぜだか冴えなかった。