でも、そんなこと知る由もないジュンは、仕掛け時計を見上げながら、どこかのユースで同室のドイツ人から仕入れたという話を語っている。
「このからくり時計は“グロッケンシュピール”って言って、あの人形たちはちゃんと物語になってるんやで」
「へぇ、そうなの。どんな話?」
「ええとな、1568年のバイエルン大公の結婚を祝うものなんやって。ミュンヘンはバイエルン州の州都やからな」
「ふーん、そうなんだ。あっ、ほら、騎士も踊ってる!なんだか強そうって言うより、可愛いね」
愉快な音楽に合わせて、たくさんの人形が登場しては、クルクルと軽快に踊っている。
「そうそう、あれは絶対、青と白の旗のバイエルン騎士が勝つようになってんねんて」
そのからくり時計が指し示していたのが17時で、それからその仕掛けは10分ほど続いていたんだけれど……
私は予想外のことに、すっかり約束のことも忘れて、ジュンの話とからくり時計の動きに気を取られていたんだ。
その時だった。