「なぁ、レイ、そんな急いで、ミュンヘンってなんかあんの?」
車窓の風景を眺めていたジュンだが、少し期待を込めて正面に座る私を見ている。
六人掛けのコンパートメントで、私たちは窓側に向かい合わせに座っていた。
あとの四人は、ドイツ人の家族連れのようだ。
「あるよ。……多分」
「ほんまに~?!まさか、アムスの飾り窓みたいなんとか?」
「そんなわけないでしょ?ここはドイツだよ。やっぱ、ジュンはポツダムで、置いて行こうかな」
「あー、嘘うそ!もう、レイはすぐ怒る~!冗談やってば」
そんな私たちのやり取りを見ていた隣の男の子が、何か新しい玩具でも見つけたように、好奇の眼差しを寄せてくる。
それに気付いたジュンは、面白い顔をして少年を笑わせていた。
その顔を見て私の隣の妹らしき女の子も、キャッキャと喜んでいる。
私は、そんなジュンと、可愛い兄妹を優しく見つめていた二人の両親と目があって、思わず笑みをこぼしたんだ。