一人でパニックになる私をよそに、千哉は抱き締める強さを強くする。
って、違う違う!
抱き締めてるんじゃなくて隠してるの、きっとそう。
そんな千哉のせいで、声をかけてきた人は全く見えないし、向こうも私が見えないだろう。
「……なんでお前いんの?」
千哉のそんな声がする。
心なしか、怒ってるようにも聞こえる。
「なんでって、これたからきたんだよ?
俺、なんでそんなに警戒されてるのかな?」
あれ、声質は透き通った声。
きれいな声。落ち着く声。
……優しそうに、感じるのに。
なんで私を隠すんだろう。
「……ところで、千哉はなにを拾ってきたのかな?」
その声に千哉も私もピクッと反応する。
優しそうに聞こえる声はどこか威圧感がある。
「別になんも。
伊織(いおり)には関係ないだろ。」
声の正体は伊織という人らしい。
「いや?
中のやつが騒いでたからね。
……千哉が、女連れてたって。
出してみ? お前が女なんて珍しいじゃん」
有無言わさない言い方に、千哉がゴクンと唾を飲み込む音が聞こえた。
そんな千哉を見上げて、私は千哉の肩を押した。
力を最初より緩めていた千哉の身体はすぐに離れた。
そして、千哉の肩に手を置いて片足でバランスを取って彼の前に出た。
「ーーーどうも、清水紬です。」
そう言って、笑いかけた。