久しぶりに、思いっきり土を蹴った気がする。

足の裏に確かな感触を感じ、風を切って、ただ前へ。

走ることへの迷いは遠いどこかへ吹っ飛び、代わりに勇気が舞い込んだ。




インターホンに出たのは、案の定康介ママだった。

私を笑顔で迎え入れてくれた康介ママに感謝しつつ、躊躇うことなく見慣れた扉の前に立つ。

物音は一切しないけど、気配はする。


大丈夫。

もう逃げない。


「康介、入るよ」


ドアノブに手をかけ返事を待たずに扉を開くと、ふわりと彼の匂いが鼻をくすぐった。

ベッドに寝転び、こちらに背を向けている康介。もう頭の包帯はとれている。


私の訪問に気付いているはずなのに、彼が振り向く気配はない。