「その影の正体に、昨日やっと気付いたの。私はリョータのことが好きなんだって……顔も知らない、もしかしたらリョータなんて名前も偽物かもしれない。何一つ確かな情報なんてないあの人に、恋をしてしまったんだって」


だから、


「ごめん……私、康介の気持ちには応えられない……っ」


涙はとうとう声に混じって、感情も表情も全てがぐちゃぐちゃになった。


恋というものは、果たしてこんなに苦いものだったのか。

真田の恋心に想いを馳せた、その気持ちは本物だった。でもその何倍も感情の起伏が激しいのは、私が当事者になったからなのかな。


「あの時康介が言ったことも、ちゃんとわかってるつもりなの。もしかしたら“リョータ”は全部虚像で、面白がった誰かに騙されてるだけなのかもしれないって」


最悪の事態も想定した。それでも。


「実態のない彼を信じられるうちは……好きでいられるうちは、気持ちに嘘は吐きたくないって思ったの」


リョータへの気持ちに蓋をして、康介の手を取る。そんな選択肢はなかった。

康介のことが大切だからこそ、そんなことは出来るはずもなかったんだ。