「今から美羽先輩のタイム測りますけど、千鶴先輩はどうです?」


視線を移動させると、ほとんどの子がアップを終え、同じ種目のメンバーなんかと談笑している。

同じ短距離の美羽が、向こうで心配そうに様子を伺っている姿も見えた。


「あ……ごめん、私はいいや」


うん、と頷くはずが、口を衝いて飛び出たのは真逆の言葉。

トモちゃんは大して驚いた素振りも見せず、明るく「わかりました」とだけ残して、美羽の元へと走っていった。


結局この日、私は一度も100メートルを走れなかった。




疲れた体を、ベッドにダイブさせる。

全身の力を抜いた瞬間、溜め息も同時に出ていった。


「…………」


これは康介自身の問題なんだって、ちゃんとわかってるつもりなのにな。