ある日突然、何の変哲もない靴箱に届いた手紙は、灰色だった私の世界を色鮮やかに変えた。

時間を共有したことはない。でも手紙を通じて、時には本や写真を通じて、色んな思いを共有した。それを嬉しいと感じる私がいた。

壁にぶち当たった私を救ってくれたのは彼だった。私の変化に気付いて、背中を押す言葉を届けてくれた。


私にするのと同じように、彼が他の誰かに言葉を届けているとしたら。エールを送ったり、本を薦めているとしたら──そんなことを考えるだけで胸が張り裂けそうになる。

こんな醜い気持ちが自分の中に存在するということを、初めて知った。


一歩引いてみる。彼でいっぱいだった視界に、他のものを映してみる。

部活や勉強、人間関係。他のものに視線を向けてみても、やはり彼は私の特別だった。


『この気持ち明確な理由を与えるとすれば、それは好きということなのかもしれない』


あぁ……そうか。

心の奥深くで叫んでいた蟠りの名をようやく知る。

幸せになれるとわかっていて康介を選べなかったのは、康介側に何かがあったからじゃない。