光希は料理なんてろくにしたこともなければ包丁を握ったこともほとんどなかったにも関わらず、世界が真っ暗になったと塞ぎ込む梨絵を元気づけるために手作りのお菓子を毎日家に届けるようになる。
『少しでもいいから、食べてみて。俺、初めてクッキー作ったんだ』
指のあちこちに絆創膏を巻いた光希が、梨絵の家の玄関先で屈託なく笑う。
『いらない。私のことはほっといて』と梨絵は突き放すけど、来る日も来る日も光希は梨絵の元を訪れた。手作りのお菓子を持って。
次第に解かされていく梨絵の心。そして生じる、心境の変化。
『それが当たり前だと言わんばかりに私を気にかけてくれる。光希はそういう優しさを持った人。私は光希のそんなところを魅力的に感じる反面、嫌だと思ってもいる。
もし音を失ったのが他の誰かだったとしても、彼は迷いなく無償の愛を与えるのだろう。愛を受け取る側が私である必要はないのだ。
だが、私にとっては違う。愛を与えてもらう相手は光希でないと落ち着かないような我儘な女になってしまった。
『少しでもいいから、食べてみて。俺、初めてクッキー作ったんだ』
指のあちこちに絆創膏を巻いた光希が、梨絵の家の玄関先で屈託なく笑う。
『いらない。私のことはほっといて』と梨絵は突き放すけど、来る日も来る日も光希は梨絵の元を訪れた。手作りのお菓子を持って。
次第に解かされていく梨絵の心。そして生じる、心境の変化。
『それが当たり前だと言わんばかりに私を気にかけてくれる。光希はそういう優しさを持った人。私は光希のそんなところを魅力的に感じる反面、嫌だと思ってもいる。
もし音を失ったのが他の誰かだったとしても、彼は迷いなく無償の愛を与えるのだろう。愛を受け取る側が私である必要はないのだ。
だが、私にとっては違う。愛を与えてもらう相手は光希でないと落ち着かないような我儘な女になってしまった。