「バカ! 何フラフラ歩いてんだ!」


温もりはすぐに離れて、だけど腕を掴まれたまま、康介がすごい剣幕で怒鳴った。

黒いワゴン車が過ぎ去っていくのが遠目に見え、ようやく、私が歩きながら車道側に寄っていってしまっていたことを知る。


「……ごめん、なさい」


何とか絞り出せたのが蚊の鳴くような声だったのは、危うく轢かれるところだったからじゃない。


背後から車が来ていることに気付いて、私の手を引いてくれた。

その拍子に飛び込んだ胸は厚くて逞しくて……男の人、って感じがして。


「……ったく。世話の焼ける幼なじみだな、お前は」


私の手をパッと離して、呆れたように息を吐く姿が切なかった。


「チキン、ダメになったな。悪い、さすがにチキンまでは守れなかったわ」


私を抱き寄せた拍子にチキンで汚れてしまったジャージを眺め、浮かべる困ったような笑顔が愛おしかった。


康介。大事で、大好きで、失うのが怖い人。一生、バカみたいに笑い合っていたいと思う人。

きっと私達が特別な関係になっても、今と同じように少しぶっきらぼうに私のことを大切にしてくれて、どんな気持ちも素直にぶつけられて、康介もそれに応えてくれるだろう。