時間さえも止まったんじゃないかと思うくらい予想外の出来事に、私も康介もしばらく無言で見つめ合っていた。

近くを通る車のエンジン音が嫌に耳につく。


この状況をどう打開しようかと考えては、ぐるぐると迷路の中を彷徨うような感覚に陥った。

そんな私を見て、康介が小さく吹き出す。


「お前、そんなに腹減ってんの」


口角を緩く上げた康介の視線は、どうやら私の右手のチキンに向けられているらしい。


「あ……うん、そうなの。お昼まで寝ちゃったせいで、すっごくお腹空いちゃって!」


そう言った声は上擦っていた。

うぅー、早くこの気まずい空気から逃げ出したい。でも。


「康介は? これから部活?」

「……いや。午前練で、今から帰るとこ」


やっぱり! 駅のほうから歩いて来ましたもんね! わかってた!

帰るマンションが同じだから、逃げようにも逃げられない。


「ちづも帰るのか?」

「あ……うん、帰る」

「……んじゃ、帰ろうぜ」


康介がそう言ってくれたことに安堵して、でも心のどこかではやっぱり逃げたいと思っている私がいる。