それは暗に──“今のまま”なんてのは有り得ない、と言っている。
ずっと考えないようにしていた。靴箱を使わなくなる日が来ることを。
薄紅が散って、青が眩しい日々が続く。黄金に輝く葉が舞い、吐き出した息が白く立ち昇る季節を終える頃、私達はこの学び舎を旅立つ。
私達を繋ぐ靴箱ポストは、いずれ消滅してしまうんだ。
「……っ」
怖い。糸が切れる時のことを思うだけで、身の毛がよだつ。
「今はまだ、“リョータ”に依存した登坂だから。一度、ちゃんと自分の立つ位置を再確認して。今回のことで長谷のことを男として認識したなら、今からでもいい、ちゃんとあいつを見てやって。そしたらきっと、“リョータ”への感情も、長谷への感情も、冷静に判断出来るはずよ」
そう言って、彼女はまた目を細めた。
そこに少しの寂しさが混ざっているように思えたのは、私の気のせいだったのだろうか。
体育の授業で倒れたということが監督の耳に入り、その日の練習は簡単な調整だけに留めるようにと命じられた。大会は来週末だというのに、という小言を添えて。
ずっと考えないようにしていた。靴箱を使わなくなる日が来ることを。
薄紅が散って、青が眩しい日々が続く。黄金に輝く葉が舞い、吐き出した息が白く立ち昇る季節を終える頃、私達はこの学び舎を旅立つ。
私達を繋ぐ靴箱ポストは、いずれ消滅してしまうんだ。
「……っ」
怖い。糸が切れる時のことを思うだけで、身の毛がよだつ。
「今はまだ、“リョータ”に依存した登坂だから。一度、ちゃんと自分の立つ位置を再確認して。今回のことで長谷のことを男として認識したなら、今からでもいい、ちゃんとあいつを見てやって。そしたらきっと、“リョータ”への感情も、長谷への感情も、冷静に判断出来るはずよ」
そう言って、彼女はまた目を細めた。
そこに少しの寂しさが混ざっているように思えたのは、私の気のせいだったのだろうか。
体育の授業で倒れたということが監督の耳に入り、その日の練習は簡単な調整だけに留めるようにと命じられた。大会は来週末だというのに、という小言を添えて。