「うん」

「私もそんなふうになりたくて、好きって言う代わりに、夢を打ち明けてきた。あんたのおかげで芽生えた夢なんだって。だから、あんたが私の憧れなんだって」

「……サトタツ、喜んでたでしょ」

「そりゃもう。今までにないくらいの笑顔でさ。興奮して、持ってた三角定規のでっかいやつ、床に落としてた。そんな姿まで愛おしく思うんだから、恋ってのはほんとに厄介だよね」


止まる気配のない真田の涙が、頬を伝って床に落ちる。

コンクリートの色が、ライトグレーからダークグレーに染まった。かと思えばすぐに乾き始めて、ミディアムグレーになる。

そんな自然の摂理が、今日は少し切ない。


「一頻り喜んでからね、昔話をしてくれたんだ」

「昔話?」

「うん、そう。部活ばっかりで勉強なんてろくにしてなかったサトタツが、数学を好きになるきっかけになった時のこと」


さっき、真田の口から少しだけ聞いた。

友達に教えてもらったことがきっかけで、数学を好きになったって……。