「サトタツってば、これでもかってくらい色んなことを話してくれたくせに……カノジョの話は一度もしてくれなかったんだよ」


彼女が吐いた長い息は、白く色付いた後寒空の中に消えていった。

だけど、こんなふうに一瞬で恋心が消えることは稀なんだろう。

積み重ねた想いの分だけ、大切にしていた時間の分だけ、苦しいんだ。心から引き剥がそうとすると、痛みが伴うんだ。

多分だけど、恋ってそういうもの。


「……もう、気持ちを伝えるつもりはないの?」


私が問いかけると、真田は甲が赤くなった手をぶんぶんと振った。


「あるわけないじゃん! ケッコンするんだよ? 言えないよー」


カラカラと笑い飛ばす真田。その姿を、恐らく私は、すごく情けない顔で眺めていたと思う。

そんな視線を感じてか、真田の笑い声が止んだ。少し間を置いて、瞼を伏せた真田によってぽつりとこぼされた言葉。


「……伝えたかったなぁとは、思うけど」


その一言を間違って落としてしまわないように、両手で掬い上げる。

大丈夫、まだ、地にはついていない。