それから、数学教師を志すようになったこと。


「いつから好きなのかとか、自分でもわかんないんだ。気付いたらサトタツのことが好きになってた。サトタツの口からサトタツのことを聞くたび、好きって感情が私の中に降り積もってった」


真田の手が、プリントの束を優しく撫でる。


「その先で、夢を見つけた。数学教師になるっていう、サトタツへの恋心は関係ない、私だけの夢」

「だから、数III……」

「そう。2年生になってから数学教師になるって決めたから今は文系選択だけど……3年生からは理系に変更するつもり」


凛とした声で紡がれた真田の夢は、揺るぎないものなんだと思う。

色恋を差し引いて、真田自身が見つけた夢だから。


「無事に大学受験を乗り切って高校を卒業できたら、その時は伝えようと思ってたの。夢の内容と一緒に、この気持ちも」

「……っ!」

「でも、できなくなっちゃった。まさかケッコンするだなんて思ってなかった」


真田が笑みを浮かべる。

それはひどく痛々しくて思わず目を逸らしてしまいそうになったけど、唇を噛んで堪えた。絶対に逸らしちゃいけないことは、五感の全てで理解していた。