振り返ると真田だった。その首には、やっぱりグレーのスヌードが巻かれている。長い黒髪がそれに巻き込まれてふわりと広がっていた。


「遅くなってごめん」


言いつつ、彼女が私の左隣に腰掛ける。

更にその隣、空いたスペースに、どさりと鞄が下された。

普段ほとんど使わないからとキーホルダーも何もつけていない、シンプルな真田のスクールバッグだ。

いつものキャリーには、有名なネズミのキャラスターのマスコットが一つだけ付いてたっけ。一つだけってところが真田らしいと思う。


「…………」

「…………」


私達の間に、少しの沈黙が落ちた。

時折ひゅうっと冷たい風が吹いて、露わになっている肌を刺す。遠くで、野球部のものと思われるランニングの掛け声が聞こえてきた。


私から話を切り出して謝らなくちゃいけないことはわかっていたから、静寂を破るために息を吸った。

だけど、それに重なったもう一つの空気が震える音に、思わず息を止めてしまう。