クラスメートの明るい声が飛んできた。瞬間、肩の力がふっと抜ける。


「あ、あはっ……! そうなの、朝からトイレとお友達状態でさぁ……!」

「ぶはっ。その回答、女子としてアウトだろー!」


お調子者の男子との会話に、教室がどっと湧く。

教卓に歩み寄り、おじいちゃん先生に遅刻届を手渡す。その際、遅刻してしまったことと、思わぬ形で授業を中断させてしまったことに対して詫びを入れると、先生は細い縁の眼鏡の奥で目尻を優しく下げてくれた。


自席に向かう途中、窓際に座る真田に視線を投げた。

だけど彼女はこちらを見ることもなく、頬杖をついて窓の外を眺めたままだった。




授業が終わり、お弁当を持って真田の席に向かう。


「真田、お昼食べよ!」

「あ……うん」


空いている前の席にどかっと腰を下ろすと、真田とようやく視線が絡んだ。

出しっぱなしだった日本史の教科書をしまった真田が、お弁当を取り出すべく鞄の中に手を突っ込む。


「……あれ」


が、その表情が曇った。眉根を寄せたままごそごそと鞄の中を漁るも、眉間の皺は深くなるばかり。