通り過ぎる教室からは先生の声と、時々黒板を走るチョークの音が。銀のフレームの向こうからは、肌を刺すような寒さを微塵も感じさせない元気な声が聞こえてくる。

そっと覗き込んだガラスについた水滴を袖口で拭ってやると、体操服姿でソフトボールをする男子の姿が見えた。


「いいなぁ、体育……」


うちのクラスは今、日本史の授業のはずだ。

50分間も机に向かってるなんてしんどいだけ! 体を動かすことが性に合ってるんだよ、私は!

……なーんて誰かに文句を言ってみても何かが変わるはずもなく、あっという間に自教室に着いてしまった。

扉の向こうから、日本史のおじいちゃん先生の声が微かに聞こえる。


肺いっぱいに空気を送り込んでからノックした扉を、一思いに開ける。と、みんなの視線が一斉にこちらに向いた。


うわーん! この感じが嫌なんだよー!

みんな、こっち見ないでー!


熱が顔に集まるのを感じていると、


「登坂が遅刻なんて珍しいねー!」

「つーか初めてじゃね? どうした、腹でもくだしたかー?」