バカ女が怒って帰ったあと。

柚乃がひとり入ってきた。

蓮、遅いな。

でも、もうバカ女も来ないから、蓮にイヤな思いさせることもなくなるし、前みたいにオレの隣に来てくれる。

能天気なオレはこのときまで、こんな風に簡単に考えていた。

「あれ?蓮は?」

柚乃がバッグを置きながら、不思議そうに聞いてくる。

「教授に呼ばれて少し遅れるって。」

「はっ?それって前園教授だよね?私、さっき会ったけど、もう帰るって言ってたよ?蓮も帰ったって言ってたけど…。」

怪訝な顔の柚乃。

どういうことだ?

蓮はスタジオに来てたのか…?

「おいっ、桐十…もしかして。蓮、見てたんじゃないか…?」

祢音がオドオドしながら、オレに言うけど。

一気に汗が噴き出す。

もし、あの女が蓮のいないところで、蓮の為のオレの曲を歌う…それを聴いてたんだとしたら。

絶対、あの曲を蓮はもう歌わない。

それどころか、オレもあの曲ももうキライになるかもしれない…。

どうしたらいい?!

スマホを取りだし、何度もかけるけど電源が切られていてアナウンスが流れるだけだ。

「ねぇっ!どういうこと?!蓮が言うなって言うから我慢してたけど、この1週間のふざけた行動以外何したのっ?!」

すごい剣幕で柚乃が揺さぶってくるけど、オレは呆然としたまま。

反応を返せない。