なんなんだよ。なんなんだよ。

なんなんだよ。長瀬伊織。

なんで、長瀬と結莉が…

デートって何だよ。許嫁ってなんだよ。

キスってなんだよ。

結莉の初めても、これからも全部欲しかったのに。なんなんだよ。あいつ。

学校じゃなかったら、殴ってやりたいぐらいムカついた。

ムカつく!ムカつく!ムカつく!

気が付くと、結莉の手を引っ張って、校舎の裏側の人気のないところまで来ていた。

「涼…ごめん。伊織くんの言ってること、本当じゃないから。」

伊織くんって。なんで名前呼びなんだよ。
名前で呼ばれるのは俺だけでいいのに。

「あのアルバムのやつなんだろ?
俺と同じ学校って知らなかったの?」

心の狭い俺は、結莉に八つ当たりしてしまった。

「知らないよ…。本当に転校してから1度も会ってないんだよ。」

「USJ…アイツと行ったことあったんだ…」

俺…嫉妬の塊だ。ダッさい。

「二人じゃないよ。
お互い家族と一緒にだよ。
ほとんど一緒にまわった記憶ないし。小3だよ。」

結莉が悪いわけじゃないのに、
黒い嫉妬心が止まらない。

「仲良かった…って言ってたけど…」

「幼稚園のころだよ。
意味もわからず、親のマネしてふざけてキスとかしてたんだよ。
もう覚えてないし、本気じゃないよ。
だいたい伊織くんだって、今日まで私のことなんて忘れてたはずなのに…」

「許嫁って…。」

そういえば、中学の時、
結莉の噂で聞いたことの一つにあった。

彼氏を作らないのは許嫁がいるからだって。
長瀬のことだったのか。

なんなんだよ。今時、許嫁って。

「幼稚園のころ、あまりに仲良かったから、親同士がふざけて言ってただけ。
だいたい、私、小学生の頃から伊織くん好きじゃないし。
もともと優柔不断で、まわりに女の子いっぱいで話さなくなったのに、あんなチャラい感じになってて、本当に苦手なの。
伊織くんだって、嫌がらせであんなこと言ってるだけだと思うし。
幼稚園のころはもう少し優しい子だったのにな…」

結莉は好きじゃないかもしれないけど、長瀬はどうだかわからない。

長瀬伊織…
アイツのことあまり知ってるわけじゃないけど、イケメンで超モテるのに、特定の彼女を作らないことで有名なことは知っている。

でも、来るもの拒まずで、毎日大量の女子がまわりを取り巻いている。

全員に優しくできるなんて、信じられない。
俺には考えられない。

不特定多数とくだらない話をして何が楽しいのだろう。

でも、あいつが本気になったら?

本気で結莉を待ってたとしたら?

結莉の初めてを全部欲しい なんて、ムカつく。

今、俺が一番気にしていること言いやがって。

俺より先に結莉と出会っていた事実だけでもムカつくのに。

不安が心の染みになる。

でも、絶対に触れさせない。

結莉の肌も、唇も、声も、髪も、全てが俺のものになればいいのに。

「アイツともう話さないで…」

カッコ悪いけど、正直な気持ちを言ってしまった。

「話さないよ。もう会うこともないと思うし!」

結莉がそう言ってくれたので、少しホッとした。

校舎の陰で結莉を抱きしめ、唇にそっと触れた。

俺以外のやつがこの感触を知っているかと思うと、悔しくて、全部俺が上書きできたらいいのに…と思った。

「私にとっては全部 涼が初めてなんだよ。」

真っ直ぐな目で、結莉がカワイイこと言うから、誰も来ないのをいいことに、文化祭終了の放送が鳴るまで、ずっと離さなかった。

離したくなかった。