クラス展示も、屋台もだいたい見終わって、そろそろ帰ろうかな……と思っていたその時、

前からひとりの男子が、たくさんの取り巻きっぽい女の子を連れて歩く派手な集団とすれ違った。

男子の顔は見えなかったけど、制服だったから、在校生だ。
内心、あれ全部彼女なのかな。アリエナイな。
と思っていた。

すると、すれ違った後、

「結莉?」

と名前を呼ばれた。

嫌な予感がした。

私を結莉と呼ぶのは、男子では涼以外にはいないはず。

いや、ひとり心当たりはある…

恐る恐る振りかえると、

「やっぱり結莉だろ?」

軽い感じで、話しかけてくる見覚えのある顔…
アイドル並みに整ったハーフのような顔立ち。
やっぱり…

知らないふりはできそうにない。

「やっぱ結莉じゃーん。」

「伊織(いおり)くん?…久しぶり。」

あぁ。会いたくなかった。

長瀬 伊織(ながせ いおり)…

よりにもよって涼のいる時に再会したくなかったよ…

「もしかして、噂の氷上の彼女って結莉?なんで?俺のことはどうなったの?」

一瞬で場の空気が凍った。

私も、涼も、伊織くんのまわりの女の子達も。

「ちょっと。伊織くん。何言ってるの?」

小学生以来会ってもいないのに、何を言い出すんだ。

すると、空気を読まない伊織くんは更に続けた。

「だって、許嫁じゃなかったっけ?俺たち。」

まわりの空気が凍てついた。

伊織くん…こんな感じの高校生になったのね…予想どおりすぎて悲しいくらい。

完全にイラついた様子の涼が口を開いた。

「結莉がなんで、長瀬のこと知ってるの?許嫁って何のこと?」

私は必死に涼に説明した。

「違うの。伊織くんは幼稚園のころ仲良かっただけで…ほら、この前アルバムに載ってた!
許嫁とかも、全然違うの。関係ないの。
その頃ママ同士が、そう言って盛り上ってただけ。大昔のことだよ!
だいたい、私が転校してから会ってないし。ただの知り合い!」

「えーーっ。ひどいな結莉。俺はけっこう楽しみにしてたのに。」

伊織くん…完全にふざけてる。

なんでこんなに残念なかんじになってしまったんだろう。

「嘘ばっかり…適当なことばっかり言わないで!」

せっかく涼と楽しい時間だったのに…

久しぶりに会った伊織くんは、意地悪な目線を外してくれない。

色素の薄い茶色の瞳が、私を覗き込む。

私に近づき、

「嘘じゃないよ。そろそろ会いに行こうかなーと思ってたんだよね。元カレにひどくない?その態度。ファーストキスの相手なのにー。」

バッカじゃないのコイツ!
何言い出すのよ。

伊織くんの取り巻き女子にもすっごいにらまれてる。

「幼稚園の時の話でしょ!勘違いされるようないい方やめて‼」

伊織くんはニヤニヤ笑いながら、更に続ける。

「やっぱり結莉、綺麗になったね。
難攻不落の氷上が夢中って噂も、結莉だったら納得だよ。
氷上ファンがけっこう流れてきたんだよねー。
俺のとこに…ふーん。
趣味いいね氷上。」

不適に笑う伊織くんに、涼はかなりイラついた様子で、

「長瀬、いい加減にしろよ。結莉、行こう。」

涼は私の手を引っ張り、その場を離れようとした。

すると、伊織くんの声が追いかけてきた。

「結莉!氷上ともうやった?」

何を言い出すの。今一番デリケートな問題なのに。

本当になんでこんな人に会ってしまったんだろう。

なんで涼と同じ学校なんだろう。

伊織くんは私たちが一瞬固まったのを見逃さなかった。

「へー。まだなんだ。
じゃあ、俺にもチャンスあるわけね。
結莉の初めて。全部欲しいなー。」

もうやだ。この人。
なんでこんなこと言えるの?

涼と繋いだ手をぎゅっとした。

すると、涼が伊織くんの前に行き、今にもケンカを始めそうな勢いで にらんだ。

「長瀬。いい加減にしろよ。
幼稚園のころの話してんじゃねーよ。
結莉は俺の彼女なの。」

イラついた涼を、からかうように伊織くんは続ける。

「へー。本当に本気なんだね。
ついでにいうと、結莉が転校するまで、けっこう色々デートしたよね。
最後は…USJだったっけ?
楽しかったなー。
氷上も行った?結莉と。」

私達の楽しい記憶に、次々と爆弾を落としていく伊織くん。

「お前には関係ないよ。行こう。結莉。」

無言で歩く涼に、ただただついていった。

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

あんなに楽しかったのに。

あんなに守ってくれたのに。

「またねー。結莉ー。」

足早に歩く私達の後ろで伊織くんの声がする。

私の幼なじみのせいで、台無しにされた。

ごめんなさい。涼…