階段を上がって、2階に結莉の部屋があった。

ドアを開けると、結莉の香りが俺を包んだ。

想像どおりというか、想像以上というか

住人と同じく、綺麗な部屋だ。

深い茶色でまとめられた木の家具。

棚いっぱいの本。

窓辺にセンスよく飾られた植物。

そして、机の上に俺のうちで撮った二人の写真が飾られていた。

こんな風に飾ってくれているなら、
もっと真面目に撮れば良かった…。

不純な気持ちを抑えるので精いっぱいだった過去の自分を恥じた。

写真を見ながら立ち止まっていると、
結莉が

「写真…うれしくて飾っちゃった。」

なんて…なんて可愛いんだ。

こんなに可愛い生き物が世の中にいていいのだろうか?

俺も帰ったら飾ろう!

そうだ。コソコソ机の中にしまわなくていいんだ。

なんだか、結莉の部屋でも俺の存在が肯定されているようでうれしかった。

そして、もうひとつ見つけた。

ベッドの枕の横で。

この前のUSJに行ったとき、成り行きであげた俺のシャツ。

なんとなく手に取ってみたら、
結莉が真っ赤な顔をして、すごい速さで取り上げた。

「ごめん。引くよね。ごめん。」

わけがわからない。なんで引くんだ。

「いや…大事にしてくれてて、本当にうれしいけど。」

真っ赤な顔の結莉が、少しこちらを見て

「本当?なんか…この涼のシャツがあると、寝る前、涼を近く感じるんだよね…。
ごめんね。だいぶキモチワルイよね。」

キモチワルイもんか‼

そんなこと言ったら、5年も前に深瀬の使ったタオルを宝物にしていた俺はキモチワルイを越えて、ド変態じゃないか。

小学生の深瀬、こっそり手に入れた中学生の深瀬の
写真をスマホに取り込み、最近の写真と合わせて夜な夜な見ている俺は、犯罪者レベルじゃないか。

なんてことは言えるわけもなく、そんなことはひた隠しにして、サラッと希望を口にした。

「うれしいよ。俺もなんか欲しいかも。結莉の。」

前に言えなかったことが、ここで実現!

ラッキーな俺。

「もちろんいいよ!何がいい?」

ほっとしたように、無邪気に聞く結莉に、ブラジャー欲しい…とか言ったら確実に変態がばれるな。

俺って本当にろくなこと考えない。

いっつも妄想にかられるから、言葉がたくさん出てこない。

だから気持ちがちゃんと伝わらない。

わかっているのに、結莉を前にすると言いたいことの10分の1も伝えられない。

「結莉のものならなんでもいいよ。」

何かっこつけてんだ。俺。

結莉が迷っている間に、ベッドに座った。

結莉がシャーペンなどの文具をガシャガシャ探しているから、思わず

「嫌じゃなければ、服とかがいいな…」

言ってしまった。

文房具もいいけど、俺も結莉の服を抱きしめて寝たい。

夢のようじゃないか。

「じゃあ…」

と言って結莉はクローゼットを開けて服を探し始めた。

しばらくして1枚のTシャツを差し出すと、

「こんなのでいいのかな?」

と不安気な様子で聞いてくる。

「ありがとう。」

やったーー。結莉の服ゲッット!

自分の顔がにやけて変な顔になっていないかな。

ありがとう というより ありがたい。

すると結莉が遠慮がちに

「無理にもらってくれなくても大丈夫だよ…。私がイタイから、優しさで言ってくれたんだよね。ごめんね。気を遣わせて…。」

結莉の謎の思考が始まった。

結莉は本当にわかっていない。

俺がどれだけ結莉を好きか。

俺がどれだけ結莉でいっぱいか。

「結莉はさ…俺がどれくらい結莉が好きか想像したことある?」

「えっ…」

結莉はいきなりの質問に驚いている。

でも今日はちゃんと言葉で伝えたい。

「毎日考えるよ。結莉のこと。
出会ってからずっとだよ。
結莉のものならなんでも欲しいし
結莉のこと、もっと知りたい。
俺は結莉以外の人を好きになったことないんだよ。
結莉を嫌いになる方法なんて思い付かないよ。
俺の方がヤバイでしょ?」


「ほんとに…?」

結莉が涙目になりながら聞く。

「本当に。
ちょっとキモチワルイぐらいのレベルじゃないよ。」

結莉はぶんぶん首を横に振って

「私もだいぶキモチワルイよ!」

「なんだそれ!?」

泣きながら笑う結莉がいとおしくて、
抱きしめたかったけど、ベッドの上でだと止まらなくなりそうで、ぐっと理性を働かせた。