「結莉はよく来る?ここ。」

妄想でよく名前呼びしていた成果が出ている。

氷上の苗字に結莉をつけて、ノートに書きまくっていた小5の頃が懐かしい。

「小さい時に何回か。覚えてる最後は小3の時かな。友達の家族と。」

「じゃあ、お互いだいぶ久しぶりだ。」

暑いので、室内系のアトラクションを中心に回っている時は良かった。

手を繋いでいても、自分を見失なわず、

深瀬の目を見て話せた。

ランチを食べた後、水系アトラクションに行くまでは…

久しぶりすぎて二人とも忘れていた。

びっしょびっしょになることに。

ポンチョも売っていたのに、高いし、

「後ろの方なら大丈夫だよね…」

なんて二人ともウカツだった。

ザッバーーーと水がかかって、

困ったのは 深瀬の白いTシャツ。

水がかかる前は、厚手の生地で気にならなかったが、

水に濡れると、くっきりと。

深瀬は

「あーあ。びしょ濡れだね。」

なんて言ってるけど、そんな場合ではない。

とりあえず、俺も目のやり場に困るけど、他の男に見られるのは絶対嫌だ。

薄い水色が透けて見える。

ここが俺の部屋なら、理性を保てそうにない。

屋外で、喜ばしいような、そうでないような。

「はい、タオル」

最高の笑顔で、俺にタオル渡してる場合じゃないよ。

「俺は大丈夫だけど、結莉…着替えとか持ってないよな。」

ブラジャー透けてるよ…なんて言えない。

そこばっかり見てると思われたくない。

「持ってないよ。このまま水攻め行こうよ!
ちょっと濡れるのも、いっぱい濡れるのも変わらないよ!」

おーーい。前から思ってたけど、

深瀬 ちょっと天然だよな。

自分のことに対して鈍感…というか。

テンションあがって、いつもよりハイなのはわかるけど…

ちょっと嫌われるの覚悟で

「いや、でもTシャツ…ちょっとヤバイよ…」

絶対変態扱いされる覚悟で言ったのに、

予想外の答えが返ってきた。

「気にしない気にしない。
そのうち乾くよ。水着と思って!
水着といえば、こんど友達と一緒に地元のプール行くために買ったんだよ。
学校のスクール水着じゃ、変でしょ?
それが水色で可愛いんだよ。」

ツッコミどころが満載で、思考がついていかない。

水着?スクール水着?プール?

「ちょっと待って。プールって何?」

「この前紹介した 美桜と来週行くの。
で、水着を先週買ったの。
もう大人コーナーで買えるんだよ。
可愛いのいっぱいあって、迷ったよ~。」

ちょっと待て。危なくないか。

「女の子二人とか、危険じゃない?」

「大丈夫だよ~。地元だよ。
ファミリーと子供しかいないよ。
私泳げないから浮き輪持っていくし。」

そういう危険じゃなくて…

声とかかけられて危ないんじゃない?

だいたい俺だって水着見たことないのに、そこらへんのおっさんに見せるなんてありえない。

最近の水着なんて、下着で歩いているようなもんじゃないのか。

だめだ、だめだ絶対だめだ。

さらに深瀬の驚き発言が続く。

「ホントは…一学期の打ち上げでクラスの皆でプールかお祭り行く予定だったんだけど…行かなかったから、美桜が誘ってくれたんだ。」

え?聞いてない。

いや、行かなかったんだから、

わざわざ俺に報告しなくていいのか…

「行かなかったんだ…」

「全員参加じゃなかったし。
スクール水着しかなかったし。」

「スクール水着って、深瀬の学校って、もしかして体育、水泳あんの?」


「あるよ!ないの?いいなぁ。しかも男子と一緒だよ!
コースと先生は違うけどさ。嫌だよね。
なんか女子の方チラチラ見てくるし。」

盲点だった…。プールの授業…。

深瀬の水着姿が見られたい放題。マジかよ。

絶対男子全員深瀬を見てる。

俺も見てないのに…

想像しただけで、興奮と嫉妬が同時に襲ってくる。

「嫌だな…他人に見られるの…」

本心が少し口から漏れた。

「私を見てるわけじゃないよー。女子全体をっていう意味だよ。」

鈍感にも程がある。

深瀬の高校の女子を知ってるわけじゃないけど、
俺は深瀬より綺麗で賢くて、優しい女子を見たことがない。加えて悩殺ボディ。

ダメだ。絶対危ない。

「一緒に行ってもいい?プール。俺も誰か誘うし。」

「平日午後なんて、部活あるでしょ?
あ…でも、ママもおんなじこと言ってた。
彼氏も一緒に行ったら?って。
女の子二人じゃ危ないんじゃない?って。
ママ昔から心配性なんだよね。」

いやいや。お母さんだって危ないと思ってんだよ!
俺をボディーガード役にするほど、心配してんだよ。

「そういえばママが彼氏家に連れて来てって言ってた。今日のお礼も言いたいって。」

「え…緊張するな…。でも行きたいな。
っていうか、プール!友達にも相談しといて。家にも行くし、とりあえずこれ着といて。」

上に着ていたシャツを脱いで深瀬に渡した。

俺のシャツも濡れているけど、
上から羽織れば透けるのはどうにかなる。

深瀬はそれを受け取って、すぐに着ると
シャツの前の裾を前で結びながら、

「ありがとう。氷上のいいにおいがする。これ欲しいなぁ。毎日一緒に寝るのに。」

本当に澄んだ瞳で俺を見ながら言うから、

心の奥までキレイになる感じがした。

「そんなのでよかったらあげるよ。」

「いいの?やったー!」

俺も結莉のなんか欲しい…って言いたかったけど、俺が言うと、変態っぽいのでやめた。