聞きたいことは、何も聞けないまま7月が終わった。

今日こそは、と思った8月の初め

深瀬が帰り道にスマホを取り出した。

今まで取り出したことがなかったので

持ってないのかと思っていた。

持っているなら連絡先を知りたいな。

と思ったその時、

スマホを見た深瀬の顔がすごく素敵に微笑んだ。

嫌な予感がした。

予感は当たって欲しくないけど聞かずにいられなかった。

「彼氏から?」

違うって言って欲しい。

強く強くそう願ったが、少し恥ずかしそうな顔をした彼女は、僕に残酷な答えを用意していた。

「あっ。うん。あっ‼周防君も知ってる人だよ。氷上。氷上涼‼覚えてる?」

平静を装うので必至だった。

頭がガンガンする。

氷上?あいつか。サッカーのイケメン。

「いつから?」

聞きたくないけど、

もう、何も聞きたくないけど、

会話を続ける方法がわからない。

「えっとね、まだ2ヶ月くらいなんだけどね。最近なんだ。」

2ヶ月…意外に短いなと感じたのと同時に

知ってるやつだから 余計に嫉妬を覚えた。


「へぇ。今から会うの?」

「なんか 氷上のお母さんに
弟君と氷上の勉強見るの頼まれてて、
今日その日なんだ。氷上、忙しいから。」

一緒に勉強するという 僕の特権を奪われた気がした。

なんだそれ。家ぐるみで仲良いのか。

今から氷上の家に行くのか…

そう思うだけで吐きそうだ。

その白い肌に触れるのも、

美しい髪に触れるのも、

氷上には許されていることなんだ。

その後の会話はあまり覚えていない。

カンカンに照りつける太陽の中、

歩いて相槌をうつのがやっとだった。

喉の奥が暑い。

家に着くと、クーラーをガンガンに効かせてベットに倒れこんだ。

何もする気が起こらず、

何も考えず眠りにつきたかった。

目覚めた時、全てが夢だったらいいのに。

どこから夢だったらいいのだろう。

深瀬と出会えたことだけは

夢にしたくない。