その日の夜は、うれしくて、眠れなかった。

女の子から女性になった深瀬の

声を 髪を 手を 瞳を 唇を 笑顔を

思い出し、幸せの余韻に浸った。

ペンケースの中から紙を取りだし

深瀬の字を指でなぞった。

綺麗で美しく凛とした字。

字は人を現すというが、本当だ。

深瀬は今何をしているんだろう。

本でも読んでいるのかな。

物理の復習でもしているのかな。

それとも…

ふとよぎった考えに心が曇った。

深瀬が好きな誰かのことを考えているのかな。

怖くて聞けなかったこと。

深瀬の心はもう誰かに支配されているんだろうか。


気持ちが沈んで本格的に眠れなくなってきたので、

物理のテキストを開いた。

今度会ったときに 深瀬に何を聞かれても答えられるように。

僕が深瀬と繋がりをもてるならここしかない。

少しでも繋がっていたい。

そう思う気持ちは間違っていないはずだ。