夏休みに入ったある日、

午後から深瀬が家に遊びに来ていた。

「昨日ね、意外な人に出会ったんだよ!」

と少し興奮気味に深瀬が 喋り始めた。

「昨日…って夏期講習って言ってなかった?」

深瀬は今まで通っていた塾ではなく、

夏期講習は予備校に行くと言っていた。

高1から予備校に行くなんて、俺からしたら信じられない。

「そう!その夏期講習でね、周防君がいたんだよ。
覚えてる?6年生の時に一緒のクラスだったでしょ?」

深瀬から聞かされる男の名前に 胸がざわついた。

「周防…って、あのメガネの?」

「そうそう。周防君ね、私立中学行ってそのまま付属の高校行ったんだけど、夏休みだけ実家に戻ってるんだって。もともと小学校の時塾が同じで、また予備校のクラスがたまたま一緒だったんだ。
すごい偶然じゃない?」

覚えていないわけがない。

小6の一年間においては、

深瀬と一番話した男子は絶対アイツだ。

同じ中学にならなかったからノーマークだったが、なんで今更出てくるんだ。

内心、ざわついてはいたが、動揺していることを深瀬に知られたくない俺は、平常心を装いながら、

「へぇ。よくわかったね。3年以上ぶり?だろ?」

あぁ。なんか嫌味な言い方。

俺。心狭い。

すると深瀬が、少し言いにくそうに、

「予備校でね…なんか男の子達に話しかけられて困ってたら、周防君が私に気付いて助けてくれた…
というか、助かったというか…」

ん?どっかで聞いた話だな。

っていうか、何ナンパされてんだよ!

助けてもらったって、どういうことだよ。

周防って、あのひょろっとしたちっちゃいメガネ君だろ?

「大丈夫だったの?」

ムッとしながら聞いた俺の心の狭さ。

「うん。それは大丈夫。と思う。
今度から席、隣周防君座ってくれるらしいし。
予備校で知り合いいなくて‥‥なんか男の子多くて。」

全然大丈夫じゃないだろう!それ!

っていうか、周防、もしかしてまだ深瀬狙いなんじゃ…

「周防って、男子校?」

「うん。そうだよ。すごいよねぇ。」

「何が?」

俺以外の男を誉められ、嫌な言葉がでた。

「周防君、すごく勉強して入った超難関男子校なんだよ。授業とかも普通と全然違うらしいよ。」

「へー。」

深瀬が、周防と話した事実にムカつきがおさまらない。

男子校なら、出会いもないし、絶対にまだ深瀬狙いに決まってる。

なんでそんな危険なとこ通ってんだよ!

「行ける日迎えに行こうか?」

っていうか、俺の彼女に近付くなって、

予備校のやつらに牽制しに行きたい。

なのに、深瀬は大丈夫大丈夫といって、

話を反らしてしまった。

絶対大丈夫じゃない。

深瀬は自分がどれだけ魅力的か全然わかっていない。

付き合ってみてよくわかった。

俺のまわりで騒いでいる女子は

さほど本気ではない。

アイドルやスポーツ選手に憧れるように、

顔が程よく良くて、何か飛び抜けてできることがあればそれでいいのだ。

そういう女子にとっては、

男なんてアクセサリーみたいなもんだ。

人に自慢できて、キレイであればそれでいい。

中身なんて二の次。

俺を好きだ と言った口で数日後には

違う男を好きだと平気で言う。


でも深瀬を好きになるやつは違う。

深瀬は見た目はもちろん綺麗だが、

中身を知れば知るほど、

好きになる。

堕ちていく。

抜け出せない。

それを深瀬自身が全然わかっていない。

周防だって、他のやつだって、

深瀬の次なんか見つけられない。

もちろん俺だって。