14時。

約束の時間ピッタリにインターホンが鳴った。

俺が急いで階段を降りたのに、

母さんに先を越された。

「暑かったでしょ。いらっしゃい。」

「お邪魔します。あの…これ良かったら皆さんでどうぞ。それと…この前…ありがとうございました。」

「そんなの。涼が、全部悪いんだし。
キツく言っておいたから!」

そう。あの試合の日、帰ってから母さんに1時間は説教された。

そういうところがダメなんだ。と。

母さん…俺はもっとダメダメなのに、
家とか部屋とかヤバイよ。

今日もかわいいし。

あぁ。今日も髪を結んでる。

うなじ、見ないようにしないと。

すぐに理性がどっかに行ってしまう。

そんなことを考えながらぼーっとしてると、母さんが

「お茶の用意が出来たら、また呼ぶわ。持ってきてくれたケーキ一緒に食べましょ。」

「お手伝いします。」

と言った深瀬の背中を押して、

無理矢理 部屋に押し込まれた。

母さんは、意気地のない俺を5年も見てきたから、ナイスアシストのつもりかもしれないが、今の俺は、こんなところに閉じ込めたら、何をするかわからない不出来な息子なんだぞ。

わかってるのか母さん。

二人きりの部屋には妙な緊張感があった。

座るところも、ベッドか机の椅子くらいしかないので、深瀬にベッドに座ってもらい、俺は椅子に座った。

適正距離を保った。

「部屋…1回お邪魔させてもらったよね。覚えてる?」

覚えてないわけがない。

あの時 深瀬が使ったタオルを宝物にしていることは、トップシークレットだ。

「ジュースこぼされてたし」

「ジーンズ借りてたし」

深瀬が可愛らしく笑った。

何か会話も弾んでるし、

このままの調子でいけば俺、今日は 大丈夫かも。

そう思った矢先、

また深瀬が俺を惑わす。

「一緒に写真撮らない?この前撮れなかったから。」

写真?撮りたいけど、それ近寄るよな?

あー。でも深瀬との写真、俺も欲しい。

観覧車で写真撮れなかったのは、俺のせいだ…

俺が深瀬にキスばっかり…

ふいに深瀬の唇が気になった。

あぁ。なんかツヤツヤしてるし…

軽く妄想で、深瀬を押し倒していた。

ダメだダメだ。ダメだー!

「写真!撮ろう!俺も欲しいし。」

自虐的にベッドに座り、

スマホをカメラにして手を伸ばした。

スマホに写る 二人の距離が
少しあったので、少し深瀬に近づいた。

同時に深瀬もこちらに顔を寄せたので、密着してしまった。

お互い離すこともできず、

シャッターボタンを押した。

深瀬のいい香りに包まれて、

もう理性は崩壊寸前。

手も握りたいし、顔だって、もっとちゃんと見たい。

でも、そんな風にしたら、その後自分がどうなるかわからない。


色んなところに目を反らせながら、なんとか持ちこたえた。

何枚か撮って、深瀬が楽しそうに見ている。

しまった。もう椅子には戻れない。

「ねぇ。これとか良くない?」

無邪気に近づいてくる深瀬。

俺は危ない人なんだぞ。

深瀬は 絶対わかっていない。

俺がこんな気持ちでいることを。

「涼ー!用意できたわよー!」

と母さんの近所迷惑な声がした。

でも正直助かった。

今日の俺は理性を保って、

これ以上深瀬に幻滅されるようなことはしない。はず…