試合会場で忙しく準備に追われていても、〝彼女〟のことが気になってしかたなかった。

入口付近を見つめては、あの子を探していた。

このあたりを見回しても結莉ちゃんはいない。

きゃっきゃうるさい、涼と同じ制服を着た子はけっこういるが。

まさか…あの中の誰かじゃないよね…

やっぱり違う子なのか…と気落ちしていると、

ふいに、綺麗な瞳と目が合った。

少し見ないうちに、また綺麗になって、一瞬別人かと思った。

白い肌に薄茶の綺麗な髪。

1番会いたかった女の子に会えた。

驚きと歓びで、胸が詰まった。

「こんにちは。お久しぶりです。」

いつも丁寧な挨拶。変わってない。

「深瀬結莉ちゃん?久しぶり!もしかして、涼の応援に来てくれたの?」

「あっ。はい。えっと」

やったーーーーーー。これはもう、99%決まりだよね。
涼!やったね。

と心のガッツポーズを決めていると、母親会の仕事で呼ばれた。

いいとこなのにー。

しかし私は1年の親。
しかも息子はスタメン。

働かないわけにはいかない。

「ごめん。また後で。」

後ろ髪引かれる思いでその場を離れた。

良かった良かった。

本当に良かった。

嬉しくて、涙がこぼれそうだった。

回りのお母さんに

「どうしたの氷上さん。まだ試合始まってないわよ。」
と心配された。

「大丈夫です…すいません…。」

試合なんて、いつもより頭に入ってこない。

いつもより数倍張り切る涼が、かわいくてしかたなかった。





後半30分に涼が、ゴールを決めた。

ガッツポーズで結莉ちゃんの方に走っていく。

良かったね。涼。

本当に良かった。

きっと結莉ちゃんでなければ、こんな思いはしなかっただろう。

5年もの間、うまくいかないあの子達を見守ってきたから、こんなに素直にうれしい。

涼の意気地のなさを、待っていて、受け止めてくれて。

息子も可愛いが、この綺麗な女の子には特別な感情があった。こんな娘が欲しい。というような。