たまたまサッカーの練習がなかったオフの日。

晩御飯を食べ終わって、すぐに部屋に戻った涼が、すごい勢いで階段をかけ降りてきた。

玄関で慌てて靴を履く涼に、

「どこいくの?」

と聞くと、

「ちょっと。」

と言って走って出ていった。

ただごとではない。

二時間ほどすると、今度は 心ここにあらず
といった表情で、ゆっくり帰ってきた。

「何も言わず出ていって、心配するでしょ。」

「うん…。」

私のことなど目にも入っていない。

そのまま部屋に上がっていった。

何があったんだ。

友達?

いや、表情がおかしい。
ややうれしそう?

恋愛がらみだな。

告白でもされたかな?
今さら告白くらいであんなかんじになる?

基本、告白された日は不機嫌なことが多い。

なんとなくだけど。

だいたい、あんなに勢いよく出ていくのがおかしい。

なんか進展あったか?

イヤ…ないか。

もう5年もぐずぐずしている涼になど、とっくに愛想をつかしているだろう。

あんなに素敵な子を 他がほっとくわけない。

息子にイライラしてきた。

「涼!さっさとお風呂入んなさい!」

なんでも、さっさと行動に移さないからダメなのよ!


「あぁぁぁぁぁぁ。」

お風呂で何やら涼が叫んでいる。

「涼!うるさい‼」

何を悶絶してるんだ。大丈夫か。



しかし、次の日いつも起こされないと起きてこない涼が、めずらしく用意を済ませて降りてきた。

しかも、すごく機嫌がいい。

「いってきます‼」

ここ数年、「いってらっしゃい」と言っても、「うん。」か無視だったのに。

これは…これは…期待してしまう。

結莉ちゃんか?それとも違うのか。

教えて欲しいけど、涼も もう高校生。

母親があれこれ 聞くのも おかしい。

自分から言ってくれるのを 待つしかない。


それから何日か、家族もドン引きなぐらい上機嫌な日が続いた。

登校前に、

「母さん。土曜日までに、何か服買ってきて。いいかんじのやつ。じゃ、いってきます‼」

いい逃げされた。

土曜日デートか?

確かに涼は、あんまり私服を持ってない。
中高は制服だし、基本ジャージかユニフォーム。

スポーツショップのポイントが貯まりまくるほど、それしかない。

買いに行く時間がないのもわかるが、せめてどんな服がいいか教えて欲しい。

相手がどんな子なのかにもよるけど、

相手が結莉ちゃんなら、かなりハイセンス。

違うのなら…もうどうでもいい。

とりあえず結莉ちゃんと仮定して、今日は買い物だ。