「ごめん。」

私はそれしか言えなかった。

うれしさと 恥ずかしさと 申し訳なさと 驚きと

色々まじって言葉が出てこない。

「何やってんだよ!」

氷上が、目を見て言った。

「はぁぁぁぁぁ。無事で良かった。」

そう言ってしゃがみこんだ。


本当に 久しぶりに こんなに近くで氷上を見た。

「本当にごめんなさい。ありがとう。」

迷惑をかけたことに、ただただ申し訳なかった。

エレベーターが1階ホールで開いた。

氷上は私の手を取り、足早にビルの外に出た。

少し冷たくなった春の風が、二人の体をすり抜ける。

握った手があつくて、冷たい風が心地よかった。

「あの…本当にごめんね。
電話…氷上しか思い付かなかって…
晩御飯の途中とかじゃなかった?ごめんね。
久しぶりだよね…話すの。」

足早に歩いていた氷上が急に振り返り

「本当に電話出れて良かったよ!
俺が電話気づかなかったら…
あぁ!何危ないことやってんだよ。」

怒ってくれる氷上を見て、不意に涙が溢れた。

「だって…知らなかったんだもん…。
里桜と愛良と3人で遊ぶって聞いてたもん…。
里桜が無理やり私に彼氏作ろうとしてて、帰れる雰囲気じゃなかったもん…」

氷上は少し驚いたように見えた。

久々に会った同級生に泣かれたら、そりゃ引くだろう。

「無理やり彼氏って…
深瀬なら彼氏なんていくらでもできるんじゃないの?なんかそういう噂とかあったし。」

意外な言葉に私が驚いた。

手をひっぱらたまま、前をむいてまた歩き出した。

「彼氏なんていたこともないよ…
でも、私に彼氏がいないと里桜的に都合が悪いみたいで…」

氷上は少し考えて、振り返り私の目を見た。


「じゃあ俺と付き合ってよ。」

真剣な表情で私を見ている。

思いもしない提案に思考回路がついていかない。

聞き違いかと思った。

氷上が私を見つめている。

握った手が熱い。

体が芯からあつくなった。