中庭掃除をしていると、掃除当番を終えた佐藤君が話しかけてきた。

「深瀬のさぁ、彼氏ってどんなやつ?」

さっき、美桜から聞かされたせいで、妙に意識してしまう。

「えーーっと。小中の同級生かな。」

「助けられたって、何かあったの?」

「えーーっと。女子でカラオケのつもりが、知らない男子もいて、逃げたいなーって時に 助けに来てくれたんだ。」

「俺の番号も知ってるだろ!
かけてきてくれたら良かったのに…。」

そういえば知ってる。
郊外学習のグループの時、皆で交換した。

美桜…私 鈍感でした。
そう思って話してみると、好意を持たれてることがよくわかる。

「どこに住んでるか知らないから、遠いと迷惑かなーと思って…ありがとう。気にしてくれて。」

佐藤君、かなり不満気。

「今日も会うの?そいつに。」

おぉ。けっこう積極的な人だな。知らなかった。
ぼーっとしてたな私。

「しばらく部活忙しいみたい…。」

「ふーん。ちゃんとしてるやつなの?」

「たぶん。小学校から知ってるから。」

「小学生からって‥‥ずりぃよな‥‥」


佐藤君は何か言いたげだが、その先を言われても困る。

でも、好きな気持ちを伝えることは大事なことだ。

身をもって知っている。

私は、あの時 佐藤君が近かったら、電話していただろうか。

氷上の連絡先を知らなくて、

氷上の気持ちも知らなければ、

佐藤君の好意も 今とは違う気持ちで 聞いていたのかな。

あの時の私には氷上の名前が光ってみえた。

思いは皆、色々な方向に向いているけど、
同じ気持ちで向き合えるのは、
かなり低い確率なんだ。

佐藤君は、何も言わず、
私も何も言えず、
結局、気まずい雰囲気のまま教室に戻った。