さっき別れたばかりなのに、

もう深瀬に会いたくなっていた。

離れてしまうと、さっきまでのことが現実のことなのか自信がなくなってしまう。

久しぶりの深瀬の声、握った手。

俺に向けられた視線。

うそみたいな出来事の連続。

5年、動きださなかった俺に 偶然が重なり、急に降ってわいた幸運。

今でも信じられない。

寝て起きたら、全部夢だったといわれても おかしくない。

深瀬はもう寝ただろうか。

明日、深瀬に会えるならもう一度、

ちゃんと気持ちを伝えたい。

ずっと好きなこと。

そしてちゃんと謝りたい。

キラキラ輝くはずだった深瀬の中学生活を、俺のせいで台無しにしてしまったこと。


明日は朝練もあるし、早く寝ないと起きられないのに目がさえて眠れなかった。

涙目の深瀬。

すこし照れた深瀬。

笑うとえくぼが可愛い深瀬。

妄想を軽く越えてくる実物。

何度も何度も、今日の奇跡を思い返して眠りについた。



朝、勇気を出してメールを送った。

夢で終わらせたくない。

今まで勇気がでなくて、何も行動できなかった。

そんな自分を変えたい。

この奇跡を チャンスを生かして、今度こそちゃんと伝えるんだ。

勇気をだしてメールを送った。

ーおはよう。今日時間があったら会える?
学校何時まで?ー

高校に入ってからの深瀬のことは、ほとんど知らない。

この市では一番の進学校に行った。

本当は府内一番の高校でも余裕で受かるのに…と友達が噂していた。

そういえば、どうして深瀬は いつも家から近い学校に行くのだろう。


すぐに返信がきた。

ーおはよう。
部活があるから6時まで。私も会いたいー

メールに釘付けになった。

会いたい‼会いたい‼会いたい‼

本当に?深瀬から会いたいなんて。

朝から胸がドキドキして止まらない。

ー俺も6時まで。俺の高校、店への寄り道禁止されてるから、深瀬の高校まで迎えに行っていい?公園待ち合わせだと危ないし。ー

深瀬の高校は俺達の小学校へ行くより近い。

家からだと公立では一番近い。

そこへ行ける人間は一握りだが。

俺の高校は同じ市内だが、家から少し離れている。

電車で行っても駅から遠いので、自転車通学している。

中学ではクラブチームの下部組織でサッカーをやっていたが、高校は近くに強豪校があったので、そこでやることにした。

全国大会にも行ったことのある俺の高校は、私立高校で校則がやたらと厳しかった。

クラブに入っているやつらには特に厳しく、校則を破れば部をクビになる。

その校則の1つに

通学途中の寄り道禁止

があった。

目立つ制服なので、店によるとすぐばれる。

コンビニすら入ってはいけないという徹底ぶりだ。


今まで真剣にやってきたサッカーを棒にふるわけにもいかない。

高校生に選択肢は少ない。

店に寄れない。

公園で待ち合わせも考えたが、

俺が必ず先に着けばいいが、そうでない場合

深瀬を公園でひとりにするのは危ない。

だいぶ緊張するけど、深瀬の高校まで迎えに行こう。


ーじゃあ待ってるので、着いたら連絡下さい。ー

深瀬から返信がきた。

断られなくて良かった。

学校まで迎えに行くって、嫌がられるかと思った。

彼氏 として認めてもらえてる気がして

更に嬉しくなった。

昨日までより景色が明るく色づいてみえた。

緑が眩しい。

暑い季節はもうそこまできている。