卒業式は雪だった。

この街ではめったに雪は降らない。

寒い体育館で式典が終わり、

クラスで卒業証書を受け取ったあと解散となった。

こんな日は呼び出しが多い。

俺も同じ事を考えているので否定はできないが、正直うっとおしかった。

俺に告白するやつなんて、きっと俺じゃなくてもいいんだ。

高校に入って俺よりスペックの高いやつがいれば、そっちを好きになる。

そんなやつばかりだ。

自慢じゃないが、この3年、ほとんど女子と話さなかった。

避けていた。

深瀬と話せないなら意味がない。

自分への戒めでもあった。

呼び出されないよう、男子の大きな輪の中で喋りながら、深瀬を探した。



深瀬は数人の女子といたが、一瞬ひとりになった。

枯れた桜の木の下で、

ぽつんとひとり空を見上げていた。

ハラハラと舞い降りる雪を見つめていた。

今にも消え入りそうなくらいの透明感だった。


今だ‼

輪を抜け走った。

連絡先のメモを持って。

「深瀬っ」

久々に名前を呼んだ。

久々にこんな近くで顔を見た。

大人びて更に綺麗になった深瀬が、目を丸くして こっちを見ている。

「もし携帯買って、困ったことがあったら連絡して!」

ずっと好きなんだ…

話せなかったこの三年間‥‥いや、小5で出会ったその日からずっと。

言葉がでてこない。

差し出した紙に、雪が舞い落ちた。

深瀬の 白く綺麗な指先が、少し震える僕の指先に触れた。

「ありがとう。」

僕に向けられた深瀬の声。

小さなその声に、冷たい指先に、心臓が跳ね上がる。

もう会えないなんて嫌だ。

もっと見ていたい。

もっと話したい。

でも、言葉が出てこない。

「涼ーーー。何してんのーー?」

俺の不審な行動に気づいた友達に大きな声で呼ばれた。

人目が気になり

「じゃあ。」

それしか言えず、輪の中に戻った。

なんて勇気がないんだ俺は。

連絡がなければ、もう会うこともないかもしれないのに。