色んなことがわかったのは修学旅行だった。

俺は深瀬のことばかり考えていて、自分に向けられている気持ちに鈍感だった。

一日目の夜。

偶然を装って深瀬と喋ろうと、ホテルのロビーをウロウロしていた。

ウロウロして捕まったのは俺だった。

あの図書室で邪魔してきた派手な服の女子が、

「ちょっと話がある子がいるから。」

と人気のない所に連れて行かれた。

そこには片割れの女子ががいた。

同じクラスなのはわかるけど、名前は覚えていない。

背が小さめで、でかい目。大人しそうに、もじもじしてるが、絶対そんな性格じゃない。
俺に話しかける時はいつも人頼み。

基本、一人で行動できないやつは嫌いなんだ。

そんな事より俺は深瀬と話したいんだ。

「何?なんか用?」

ぶっきらぼうに聞くと、派手な服が答えた。

「早妃が話あるんだって。」

話があるならさっさとしてくれ。

イライラしながら、もじ子を見ると、


「あの…あの…好きなんだけど。」

と、少しうつ向いて恥ずかしそうにしている。

告白か!

今まで面と向かってコクられたことはなかったので、正直驚いた。

「付き合ってほしいんだけど。」

もじ子が更に続けた。

俺は困った。

断るのは大前提だけど、なんて言っていいのか。

「いや…ごめん。」

そう言った瞬間、もじ子が泣き出し、派手な服が

「なんでダメなの?好きな子とかいるの?」

と、畳み掛けるように聞いてきた。

俺は、こういうところが嫌なんだよ…と思いながら、

「ごめん。」

と繰り返した。

「好きな子がいる」

なんて言ったら、次は「誰?」って聞かれるに決まってる。派手服の圧力は強い。

逃げるようにその場を離れた。

ロビーの自販機前のソファーに深瀬がいた。

近づくと、深瀬はひとりではなかった。

担任の山上先生とあのメガネと話していた。

山上先生が俺に気付き、

「どうした氷上。真っ赤な顔して。のぼせたか?
告白でもされたか?」

深瀬もいるのに、でかい声で言った。

笑えない冗談だ。

「違うよ!」

そう言って、逃げるように自分の部屋に帰った。

なんとなく、深瀬と顔を合わせづらかった。


2日目も違うクラスの 話したこともない女子にコクられた。

もちろん断ったが、2日目の夜の男子部屋はその手の話題で持ちきりだった。

誰が誰にコクった。とか誰が好き。とか。

関心ないふりして聞いていたが、誰かが

「深瀬も隣のクラスの青木に呼び出されてたぜ」

と言い出して、他人事ではなくなった。

別のやつが、

「OKされたの?」

と、聞いた。俺も聞きたい。

内心不安でたまらなかった。

「だめだったっぽい。深瀬っていまいち何考えてんのかわかんないしなー。」

良かった。他のやつが告白するなんて、思いもよらなかった。

深瀬のこと好きなやつは 他にもいるだろう。

でも6年男子なんて皆まだまだ子供っぽくて、

自分から告白なんてするやつがいるとは…。

俺だってそうだ。深瀬と喋りたい。近づきたい。

最近は 他のやつと話してるだけでムカつく。

深瀬を独り占めできたら、どんなにいいだろう。

でも、つきあうとか具体的なこと考えたことがなかった。

でも他人に盗られる前に、自分の気持ちは伝えたいと

帰りのバスで思ったんだ。

隣のクラスの青木はすげぇ。