6年も同じクラスで、また深瀬が俺の後ろの席だった。

出席番号って、意味わからんけど、なんていい制度なんだ。神さまありがとう!

また、毎日学校に来るのが楽しみになった。

6年は何かとグループ学習が多く、同じ班だと行動が一緒になれる。

浮かれる俺とは対照的に、深瀬は女子同士でいる時間がだんだん長くなった。

俺が話しかけても、前のようにたくさん話してくれない。

男子に話しかけられないように、女子の輪の中にずっといる。

そんなに楽しそうにも見えないのに。

休み時間はいつの間にかどこかに行ってしまうこともあった。

前のように喋れない。

もしかして避けられている?

そんな事すら考えるようになった。

しかし、避けられるような心当たりもない。

深瀬を見ていると、俺だけでなく、多くの男子と距離をとっているように見えた。

たまに話すのは深瀬と同じ委員のメガネをかけたアイツくらい。

中学受験するらしいあのメガネは、まさに優等生。

やたらと早口で、いつも上から目線で、俺のグループにはいないタイプだった。

学校のテストなんかは、いつも深瀬と二人満点だった。

メガネ自体は女子が苦手そうだったが、深瀬とは話していた。

深瀬と喋っているだけで、無条件に嫌いになりそうだった。

ある日耐えきれず、20分休みにそっと深瀬を追った。

深瀬は図書室に入った。

偶然を装って、少し遅れて俺も中に入った。

深瀬の近くに座り、返す本も持っていないのに

「おすすめの本ある?」

と気取って聞いた。

深瀬はクスクス笑いながら、小声で

「ちょっと探してくるから待ってて」

と言って、本棚から一冊の本を抜き出し、俺の前に置いた。

「この本ね、サッカー選手の伝記なんだけど、サッカーあまり知らない私でも面白かったから、氷上ならもっと面白いと思うよ。
あっ、ミステリーで面白いのもあるから、探してこようか?」

少し意地悪そうな顔でクスクス笑っている。

いつもの深瀬がそこにいた。

「ミステリーはもういいよー。」

おどけて言った俺に、また笑っている。

避けられてるなんて、やっぱり気のせいだったんだ。

そこには、いつもの優しい深瀬がいた。

「深瀬は何読んでるの?」

深瀬が口を開きかけた時、

クラスの女子が二人入ってきた。

深瀬の顔が一瞬曇り、席を立った。

「ゆーりー。氷上と二人で何やってんの~?」

深瀬はぎこちない笑顔で、

「たまたま会っただけだよー。本返しに来ただけー。」

と言って、図書室を出た。

代わりに入ってきた女子が、深瀬の座っていた席に座った。

二人でこそこそ話ながらこっちをチラチラ見てくる。

俺は こういうタイプが一番嫌い。

ただでさえ、深瀬との久々の会話を 邪魔されてムカついてるのに。

やたらと派手な服の方が、話かけてきた。

「氷上は何やってんの?図書室なんてよくくるの?」

せっかく深瀬と話してたのに、

お前ら邪魔なんだよ!

とは言えず、

「サッカーの本借りに来たんだよ。」

と言って席を立った。

でも、わかったことがある。

深瀬は、ふたりきりなら今までどおりの深瀬だ。

あの女子が直接原因なのかはわからないが、

人目があると逃げられる。

馬鹿な俺は、二人きりになれば深瀬と話せると思い、

更に深瀬を目で追いかけるようになっていた。

俺を追いかける目にも気づかず。