今思えば、5年のクラスは良かった。

なんでそうなったかは覚えていないが、

グループで何かを発表するのに、準備が間に合わず、誰かの家で集まってやろう という話になった。

たまたま深瀬と同じグループで、たまたま小学校から俺の家が近いということで 俺んち集合になった。

急いで帰って、すごい勢いで部屋を片付けた。

いつもは部屋なんて片付けない俺が、必死になっている姿を見て、母さんが笑っていた。

「誰がくるのか楽しみだわー。」

完全にふざけているし、なんかバレている。

「うっさいな。学校の友達だよ。母さんもリビング片付けてよ‼」

ハイハイと言いながら、完全に何かに気づいている。



約束の時間に深瀬と他女子に2名が来た。

「おじゃましまーす。」

とキョロキョロ物色しながら靴を脱ぎ散らかして、二人が入ってきた。

深瀬は一番最後から入ってきて、玄関で紙袋を母さんに手渡した。

「急にお邪魔してすいません。
これ、良かったら食べてください。」

そう言って、靴を揃えて入った。

「はい、どうぞー」

と言いながら、母さんが俺の腕を軽く押した。

ニヤニヤしている。だから嫌なんだ。

他の男子も合流して、とりあえずおやつを食べながら、発表内容を話すことになった。

しかし、深瀬以外の奴等は、話し合いより 俺の部屋の物色ばかりして、俺はそれを止めるのに忙しかった。

「おい!そこの引き出しあけんなよ!」

「ベッドで跳び跳ねんな!」

「勝手にマンガ出すなよ!」

みんなの悪ふざけが過ぎて、ジュースをこぼした。

それが深瀬のスカートにかかった。

結構な量だったので、タオルを持ってきた母さんが、

「洗って乾燥機かけるから、涼のズボンを乾くまで履いといて。」

と無茶な提案をした。

深瀬は真剣に断っていたが、俺の母さんは圧しが強い。

結局深瀬は、洗面所で俺のジーンズに着替えさせられた。

その後は、なんとなくふざけられない雰囲気になり、話し合いも進んだ。

5時半になり、皆帰っていったが、深瀬だけは、あと乾燥機が30分かかるということで、部屋に残ることになった。

二人きりになって、うれしかったが、シーンとなり急に気まずくなった。

「サッカークラブ入ってるんだよね?楽しい?」

察した深瀬が話題を振ってくれた。

「めっちゃ楽しいよ。今、試合でもけっこう勝ててきてさ。今のチーム最高なんだよ。」

サッカーのことになるとついつい熱くなってしまう。

実際俺の生活は、学校に行くこと以外、ほとんどサッカーで埋められている。

土日も夏休みもなかった。

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それは今でもそうだ。

深瀬がこの部屋にいたことが

昨日のことのように感じられた。

もう4年以上前の話だ。

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スカートが乾いたらしく、母さんが深瀬を呼んだ。

「暗いから送っていってあげな。」

有無を言わせぬ感じに、二人とも従った。

もう薄暗く肌寒い。

「けっこう寒いね。」

深瀬が自分の腕をさすった。

しまった。何か俺の上着でも持ってくれば、深瀬に貸してあげられたのに。
なんて気が利かないんだ俺は。

手を寒そうにしながら、深瀬が言った。

「そういえば、何が入ってたの?」

「えっ?」

「机の引き出し。なんか必死だったから。ふふ。」

「何も入ってないよ!変なものは!」

焦った俺は変なことを言った。
これじゃ、変なものが入ってると 言っているようなものだ。

「へー。氷上にも秘密があるんだね。」

「あっちゃ悪いかよ。」

「ううん。何か意外だったから。」

「何だよ。人を能天気みたいに。」

「違うよ。氷上はまっすぐっていうか、太陽っぽいから、秘密とか影とかなさそうなイメージで。ごめん。」

「いや、秘密って、たいした秘密じゃないし。ただ、クラスのやつらに興味本意で騒がれるのはイヤだっただけで‥‥。」

秘密ってのは、俺が深瀬を好き ってことで‥‥
深瀬に知られるのは、怖いっていうか。
いや、バレてもいいんだけど、どうしていいかわかんないし。

「じゃあ、好きな人の写真とか入ってたのかな?」

深瀬が前をむいたまま、そんなことを言うから、俺は口から心臓が飛び出そうになった。

引き出しの中には、深瀬の写真や深瀬に教えてもらったノートの切れ端が大量に入っている。

それを言えば、深瀬はどんな顔をするんだろう。

「‥‥。」

勇気のない俺は、何も言えないまま立ち止まっていると、

「図星だ。」

そう言って、深瀬は、白いスカートをヒラヒラさせて俺の先を歩いた。

バレたかな?俺が深瀬を好きだってバレたかな?
それ以上、何も答えられず、何も聞けず、帰り道を歩いた。

深瀬の家は今まで知らなかったが、歩いて10分くらいの新しい住宅街の一画だった。

思いがけず深瀬の家を知れてうれしかった。

その後俺が意味もなく、深瀬の家の前の道を使うようになったのは言うまでもない。