林間学校は肝だめしのことしか覚えていない。

真っ暗な中、男女ペアでスタンプを集めてまわる。

皆、くじで決められた相手に文句をいいながら、スタート直前にしぶしぶ手を繋いでスタートしている。

中には、俺のように不正を働いた女子が何人かいて、微妙な空気感のある二人組もいた。

俺たちの番になって、まわりの男子に冷やかされつ深瀬と俺は手をつないだ。

「なんか照れるね。」

「おぉ。」

「手とかつなぐの、低学年の時ぐらいだよね。」

「おぉ。」

せっかく深瀬が話しかけてくれているのに、心臓バクバクな俺はうまく言葉が出てこない。

深瀬の手はひんやりとしていた。

ドキドキして、手が汗ばんでいるのは俺だけだ。

俺が緊張で相槌しかうてないせいで、深瀬まで何も話さなくなっていた。

このままでは、せっかく手を繋いでいる意味がない。

「ふ、深瀬は怖い系大丈夫なの?まあ、先生だけど。」

「あんまり。」

「えっ?深瀬苦手なの?」

「突然、っていうの苦手なの。」

「先生ってわかってても?」

「うん。でもひとりじゃないから、たぶん大丈夫。」

ひとりじゃないから‥‥俺がいるから大丈夫。と言われたようで、うれしくなった。

早く歩いてしまうと、せっかくの時間が早く終わってしまうので、わざとゆっくり歩いた。

二つ目のスタンプが見えた時、いきなり深瀬の横から真っ白なオバケが

「わぁぁぁ」

と叫んで出てきた。

深瀬はびっくりして、俺の腕にしがみついた。
俺はオバケより 深瀬の近さに驚き、ドキドキしっぱなしだった。

その後も、意外に本気な先生のお化けに俺と深瀬の距離は縮まったように思えた。

ゴールにたどり着いて、

「深瀬って本当に怖がりだな。」

とからかう俺に、少し怒った顔も可愛かった。

俺にとっての深瀬は もちろん 特別 だけど、

深瀬にとっても俺は 特別 な存在になれているような気がした。

少なくとも他の男子よりかは。


後日、林間学校の写真が売り出しのため貼り出された。

手をつないだ俺と深瀬の写真もあった。

この写真は今でも俺の宝物だ。