急いで玄関ドアを開けると、制服姿の涼が、心配そうに立っていた。

「ごめん…寝てた…。」

そういうと、涼は笑って、

「なら、良かった。電話 でないから、心配で。」

と、優しい笑顔を向けてくれた。

「良かったら、入って。」

私が、そう言うと、涼はちょっとびっくりした顔で、一瞬止まった。

「時間なかったら、いいんだけど…ちょっと話したかったから…。ごめん…。」

涼が、困っているのを察して、言ってみた。

でも、よく考えたら、心配させるようなメールを勝手に送りつけておいて、寝てるなんて、私、失礼極まりない。
最低だ。

さっき反省したばかりなのに、全然だめだ……。

「涼、ごめ…」

と、わたしが謝りかけたところで、

「じゃあ、お邪魔します。」

と、涼が玄関階段を上がってきた。

「結莉だけ?」

「うん。」

「ふーん。勝手にあがっていいの俺?」

「もちろん。ママにもメールしとくね。なんか飲む?」

「いや、長瀬の話、聞きたい。」

そう言った涼は、すこし不機嫌に見えた。

部屋に入ってとりあえず、ふたりでベッドに座った。

「で?長瀬なんて?」

声のトーンが少し落ちた。

「なぜか校門で待ってて…人だかり出来ててびっくりしたよ。」

少しジョークっぽく言ったのに、場の雰囲気は変わらない。

「それで?」

「『一緒に帰ろう』…って言われて、
『嫌。』って言ったけど、無視して引っ張られて…」

「手、握られた?」

「うん…。」

声が小さくなる。

「それ以外なんかされた?」

涼から、怒りみたいなものを感じる。

私のダメダメさに辟易としているのかもしれない。

キスされそうになったことは、黙っておこうと思っていた。

でも、涼の目を見ながら、嘘をつくことなんて、私にできそうにない。


「…されてない…防いだから大丈夫。」

「何を防いだの?」

「何もされてないよ。結果的に。しっかり防御したの。」

「だから、なにから防御したの?」

「ちょっと顔が近づいて…手で防御したから大丈夫!」

そう言った後、涼が固まった。

「アイツ…許せない…」

涼が、怒りをかみ殺すような声で言うから、あわてて

「私の気のせいかもしれない。たまたま近づいたのかも。だから、涼は気にしないで。怒らないで。試合近いのに。私は大丈夫だから。」

「大丈夫って、何が?」

真剣に怒った涼を初めて見た。

機嫌が悪いくらいのレベルじゃない。

低い声で涼が続ける。

「キスされても大丈夫ってこと?
俺は結莉が、長瀬にキスされても怒っちゃいけないの?」

「違う!ちゃんと逃げるから大丈夫ってこと。私のことなんかで、涼が嫌な思いしないで欲しいの。」

涼は、深いため息をついて、

「結莉は全然わかってない。男が本気で力を入れたら、逃げることなんてできない。」

そう言って、私の腕をつかんで、ベッドに押し倒した。