伊織くんの身勝手な行動のせいで、悩みがひとつ。

今日の一連のやり取りを、涼に報告するか否か。

涼が、そんなに気にすることではないと思うけど、もし、明日、伊織くんが、学校で あることないこと涼に言い出しても困る。

伊織くんなら、やりかねない。

その前に涼にちゃんと連絡しておいた方がいい。

私のことで、涼が伊織くんを殴ったりしないだろうけど、私のことなんかで、涼が嫌な思いするのは、絶対嫌だ。

家に着くとすぐに、伊織君の唇が触れた手を洗い流し、スマホに向かい合った。

涼は、まだ練習中だから、とりあえずメールしておこう。


ーー今日、伊織君がなぜか校門で待っていたけど、逃げるように帰ってきたよ。
今日だけだと思うけど、明日は 念のため 時間をずらして帰るね。
伊織君が、変なこと言ってきても、嘘だから信用しないでね。--

送信して、ベッドに寝転がった。

ここ数日、伊織君に振り回されてばかりいる。

最近、ようやく涼と気持ちが通じ合ってきた気がするのに…。

伊織君のせいで、不安がよぎる。

試されてるみたいだ。

人に好かれるより、嫌われることの方が多い私が、人気者の涼の彼女で大丈夫か?って。

よく考えれば、あんなに人気者でもてる涼が、私の彼氏になってくれただけでも、奇跡なのに…。

傷を触りながら、昔の自分を思い出して、嫌になった。

そうだ。私は、嫌われて階段から落とされるような人間なのに…。

暗い考えが頭の中を支配して、嫌な気分になった。

少しでも落ち着きたくて、涼のシャツをだきしめた。

だんだん不安がやわらいで、睡魔に襲われた。



「ピーンポーン」

遠くに聞こえた玄関チャイムの音が、妙に近く感じて、飛び起きた。

壁の時計に目をやると、一時間たっている。

あわててスマホをみると、涼からの着信がいくつか不在になっていた。

しまった。

授業中のままの設定で、音なし設定だった。

もしかして、このチャイムは…

スマホを持って、あわてて階段を駆け降りた。