3人でとりあえず席につくと、私のママが用意したジュースやコーヒーを並べながら、話をきりだした。

「さっき話した結莉の彼氏ね。
氷上君って言うんだけど、伊織くんと同じ学校なのよね?
結莉が前に、文化祭に呼ばれて、その時偶然会ったんじゃない?」

「そうなんだよー。氷上と一緒にまわってる結莉を偶然見つけてさ、衝撃で、2度見したもん。
オレ。ショックで。」

伊織くんのふざけた言い方に、イライラしながら、

「伊織くんだって、彼女と一緒だったじゃない?」

と、言い返した。

あえて、彼女達とは言わなかった私に感謝して欲しいくらい。

伊織くんは、言い返した私の目をじっと見て、

「彼女じゃないよ。ともだち。
ともだちはたくさんいた方が楽しいでしょ?」

そう言って、微笑んだ。

なんだか納得のいかない私はつい、

「ともだち…って、皆伊織くんのこと好きでしょ?そんなの友達じゃないよ。」

と、親がいるのも忘れて熱くなった。

「ともだちだって、お互い好きなもの同士じゃない?結莉は嫌いな人と友達になるの?」

「ならないけど…伊織くんのまわりの女の子の好きは、友達の好きとは違うでしょ?」

「そんなに違わないよ。結莉だって、友達選ぶとき、話が合うとか、ノリとかで友達になるでしょ?
一緒だよ。」

「同性の場合でしょ。私は、異性の友達はいないもの。」

「それは、結莉だからだよ。
結莉を好きになった男は、皆、本気だから。
友達でいられないんでしょ。
オレのまわりの女の子は、ともだちで大丈夫なの。
本気じゃないの。
そういう約束なの。」

「そんなの。伊織くんの勝手な約束でしょ。女の子達は、本気かもしれないじゃない!」

あまりに身勝手な伊織くんの考え方に
怒りが込み上げてきた。

気持ちを受けとる気がないのに、ずっと好きなままにさせておくなんて、理不尽な気がした。

なのに、伊織くんは、自分の考えに自信を持っているかのように見えた。

「本気になれる相手に出会えないんだよ。でも、最近見つけたからもう大丈夫。」

伊織くんはそう言うと、最高の笑顔でこちらを見た。

ずっと話を聞いていただけだった伊織くんママが、

「伊織、ようやくちゃんとした彼女できたの?」

と驚いたように聞くと、

「まだ彼女じゃないけど。今から告白する予定。」

そう言ってにっこり微笑んだ。

なぜか、伊織くんは、私から目を離してくれない。
嫌な予感がする…。

伊織くんママが、

「誰なの?ママ知ってる子?」

と聞くと、私の目をじっと見つめて、信じられないことを言い出した。

「結莉。オレの彼女になってよ。」

耳を疑った。

その場にいた全員の開いた口がふさがらない。

親の前で、なんてこと言うんだろう。

久しぶりに話すのに、笑えない冗談。

ふざけているとしても、たちがわるい。

本気で私のことが好きなんて、到底思えない。

流石の伊織くんママも、申し訳なさそうに

「伊織…いきなり何言い出すの。結莉ちゃん、彼氏出来たって話は、伊織も知ってるんでしょ。」


「知ってるよ。でも、結莉に彼氏がいることと、オレが結莉を好きなことは、関係ないし。母さんだって、結莉が彼女だったらうれしいでしょ?」

「うれしいけど…。結莉ちゃん、彼氏とうまくいってるんでしょ?それを邪魔するようなこと、やめなさい。」

伊織くんママは、困惑している。
息子の突拍子もない提案に。

そこに、私のママが口を開いた。

「伊織くん、本気なの?」

「本気だよ。親の前で冗談で告白できないよ。」

「伊織くんの女の子の友達はどうするの?
皆好きは許せても、一人を好きは、許してくれないんじゃない?」

伊織くんは、いつも優しい私のママの
意外に強い口調に少し黙った。

そして、少し何かを考えて、

「じゃあ、ともだち は、もういいや。」

そう言って、スマホを取りだし、
連絡先の女友達のフォルダをあけて、
全削除のボタンを押した。