学校から帰ってくると、玄関に見慣れない女性ものの靴があった。

そういえば、今日伊織くんのママがランチに来るっていってたけど、もしかしてまだ話してるのかも。

「ただいまー。」

リビングのドアを開けると、伊織くんのママとうちのママが盛り上がって喋っていた。

伊織くんママは、私を見るなり、立ち上がり駆け寄った。

「結莉ちゃん。しばらく見ない間に更に綺麗になったわね。あぁぁぁ。おしいわぁ。」

伊織くんとそっくりな、綺麗なママ。ちょっと強引なところも親子そっくり。

「お久しぶりです。どうかされたんですか?」

「今、聞いたのよ。結莉ちゃん彼氏できたんだって?」

あぁ。そのことか…

「はい。最近…。」

「あぁぁぁ。私、伊織のお嫁さんは、絶対に結莉ちゃんが良かったのに、残念だわー。」

伊織くんに相手にされなくなったのは、私の方ですけどね。と、思いながらも

「伊織くん、モテるから、私より素敵な人連れて来ますよ!」

と明るく言ってみた。

伊織くんママは本当にガッカリした顔で、

「伊織はダメよ。モテるからって、本質が見えていないのよ。結莉ちゃんが転校してから、ひどいものよ。結莉ちゃんに彼氏がいなかったら、頼み込んで彼女になってもらおうと思ってたのに…。」

「そんな…伊織くん、彼女いるだろうし、私じゃ無理ですよ。」

伊織くん、彼女いっぱいいるし…とは、伊織くんママの前では言えなかった。

「そんなことないわ。照れてるだけなのよ。今日だって…あっ!伊織に口止めされてたんだ。」

伊織くんママは、あわてて口を押さえた。

「伊織くんがどうかしたんですか?」

その時、ピーンポーンと玄関チャイムが鳴った。

嫌な予感…

インターホンの画面に映ったのは、端正な顔立ちの男の子。
やっぱり…。

「伊織だわ。結莉ちゃんを驚かせたいから、黙っててって、言われてて…。」

伊織くんママは、そう言いながら、私のママと玄関に向かった。

これって、どういうこと?
涼に、伊織くんには近付かないで欲しいって言われてるのに…

でも、ただママを迎えに来たってこともあるのかな…。

そうだ、涼に一応報告しておいた方がいいよね。

そう思って、鞄からスマホを出した。

すると、リビングのドアから、

「結莉!久しぶりー‼」

と、派手な登場で伊織くんが入ってきた。

「久しぶりって、前に会ったばっかりじゃない。」

私がそう言うと、一緒に入ってきた伊織くんママが、

「そうなの?伊織、結莉ちゃんにしばらく会ってないって言ってなかった?」

訝しそうに伊織くんを見つめると、伊織くんは何の悪気もなさそうに、

「そうだったかな?この前文化祭で見かけたんだ。ね、結莉。」

伊織くんがいじわるそうな瞳をこちらにむける。

すると、キッチンでジュースを用意しているママが、

「えっ?もしかして、伊織くんと氷上君、同じ学校なの?」

と驚いたようにきいた。

私が返事をするより先に、伊織くんが、

「そうなんだよ。結莉ママ。オレ、ショックで倒れそうになったもん。」

と、あまりにふざけているので、つい

「うそばっかり!」

と強めに言ってしまった。

状況を飲み込めない伊織くんママが、

「えっ?どういうこと?」

そう言って、困惑している。

見かねたママが、

「まぁ、座ってお茶でもしましょ。伊織くんも結莉も、鞄を置いて、座りなさい。」

その声に皆うながされた。

私は制服のまま、スマホをもったまま。

涼に連絡できる状況ではなくなってしまった。