どうして「恋」というものはこんなにも儚いのだろう。
このニ年間、ずっと待っていた大好きだった人。
だけど、そのニ年間の間に好きになってしまった人。
選ばなきゃいけない恋。儚いけど美しい恋。

傷ついて傷つけて、私達は恋をした。



はらはらと桜舞う四月。
高校生になって二日目の私、相沢 玲花。
「お母さん、行ってきまーす!」
慣れないリボンをつけて、新しい制服を身につけ、私は元気に家を飛び出した。
そして、首元で光るネックレスを見つめる。
「…。」
このハートのネックレスは一年前に大好きだった私の元カレがくれた物だった。
待ってる。今も。早く帰って来てほしいな。
彼は、海の向こうに行ってしまったから。

「おはよー!玲花」
教室に入ると、中学の頃からの親友の桑原春が抱きついてきた。
「おはよ、春!」
私は自分の席に荷物を置いて腰を下ろした。
「ねぇ、玲花!隣のクラスの雷太君って知ってる??」
春が目をキラキラさせてたずねた。
「あ、知ってる!すごいカッコいいよね!」
井川 雷太君。チャラそうなイケメン。女子の注目の的だ。
「芸能人みたいだよね〜。さすが高校!
でね、ちょっと気になっちゃって、」
呟いた春の頰はうっすらと赤く染まっていた。
「えぇ?!本当?!頑張ってね!」
「ありがとう」
へへっと照れて笑う春は本当に可愛い。
目はパッチリしてるし、まつ毛は長い。背は高くてスタイル抜群。美人って言葉がピッタリだ。本人自覚してないけどモテるし。
雷太君と春だったらすごくお似合いだ!!
私は、まだアイツを待ってるんだ。
だって、アイツとは…。
「なぁ、聞いてる?」
「?!」
気づけばすでに授業が始まっていて、隣の席の男の子が私に話しかけている。
「ご、ごめん、何?」
「消しゴムかして!」
彼はそう言って、申し訳なさそうに手を合わせた。
「あ、はいっ」
「さんきゅっ」
昨日の自己紹介を思い出す。
えっと、たしか、本村優雅君。イケメンだったからすごく印象的だった。
短髪の黒髪。シルバーのピアス。すらりとした体。かっこよく着崩している制服。
恐そうなイメージだったのに、笑った顔が優しい。
「う、うん!!」
今目の前で微笑む彼を見て、胸が高鳴っているのはどうしてだろう。
「えっと、たしか相沢さんだよな?」
彼から消しゴムを受け取った時、少し触れた指。
「玲花でいいんだよ」
「じゃあ、玲花!おれは優雅って呼んで」
「う、うん。じゃあ、優雅、君、」
君付けをしてしまった私に優雅君がふきだした。
「優雅“君”ね」
と言って。
なんだろう。呼べないよ。恥ずかしいんだもん。やばいよ、私。
大吾以外の人にドキドキしてるー…。

「玲花ー!お腹すいたよー!ご飯食べよ!」
四限が終わると同時に春がお弁当を手にニコニコしてやって来た。
私達は向かい合って座るとお弁当箱を開けた。
隣の席は空いている。優雅君はどこに食べに行ったのだろう。
「今日さ〜、お兄ちゃんがお弁当作るって作ってくれたんだけど、みて!これ!焦げてんの!」
真っ黒焦げになった卵焼きを私に見せながら春はケラケラ笑った。
「晃介さん優しいな〜。お姉ちゃんが私にお弁当作ってくれるなんて絶対考えられないもん」
「えー、そう?絵里さん十分優しいじゃん」
晃介さんは春の二つ上のお兄ちゃん。
喧嘩が強くこの地域のナンバーワンだと聞いた。でもすごく優しくて面白い人なんだ。
絵里さんとは、私のお姉ちゃん。
お姉ちゃんは晃介さんと同じ歳で、やんちゃだけどいつだって私の味方になってくる自慢のお姉ちゃん。
お姉ちゃんと晃介さんはよくつるんでるらしくて、付き合っちゃえばいいのにってよく思う。
「ねぇ、春。あのさ…」
「ん?」
「私ね、大吾以外の人にドキドキしてるの、」
春は動かしていた手を止めてゆっくりとこっちに目を向けた。
「それって、優雅君?」
「な、なんでわかるのっ?!」
「二人今日しゃべってたしね〜」
ケラケラと笑う春に、私は恥ずかしくなってうつむく。見られてたんだ。
「これって、どう、思う…?」
私には待っている人がいる。
おそるおそる顔を上げて春を見た。
「優雅君が気になるってこと?」
春はまっすぐと私を見つめてたずねた。
気になる?優雅君が?まだ出会ったばかりだ。
「私は、大吾を待ってるよ…」
シャラっと音を立てて揺れたネックレス。
その時、春はハァーとため息をついた。
「もうさ、玲花には新しい恋してほしいよ。
玲花はもう、十分待ったでしょ?」
「…」
何も言えない私。
「ねぇ、他の人に恋しちゃいけないの?
あたしはさ、もう玲花のつらい姿を見たくないの」
「つらい姿…?」
「大吾君を待ってる玲花は幸せそうなんかじゃない。つらそうだよ。だからね、新しい恋して幸せになってもらいたい。大吾君じゃない他の人と」
ぐっと強くネックレスを握りしめた。
私にはただ小さく頷くことしかできなかった。
「まっ、無理にとは言わないよ!
でも優雅君は賛成だよ!彼イケメンだしね」
「え?!そこ?!」
ハハって笑う春に私も笑顔になる。
「てか雷太君はー…」