玄関から家を出て、喫茶店の裏口から入った。
今日は晴れているけれど、外の空気はさすがに寒い。
対して店のなかはとても温かく、良い香りの空気に包まれていた。
ケーキを焼いていたのだろうか、甘いにおいも漂っている。
あとで一切れもらおう。
そう思って店内に出た途端、後ろにのけぞってしまった。
「こんにちは」
軟派な笑顔がそこにいる。
「なんでここが」
店のカウンターで優雅に珈琲を飲んでいる姿が忌々しい。
「幽霊に聞いてみた」
どこの幽霊だか知らないけれど、情報をリークしたやつを恨む。
幽霊を恨むってできるかどうかは別。
「ストーカー」
「酷いなあ、せっかく知り合えたのに」
「そういうことを平然と口にするのが耐えられない」
「晴ちゃんは、無口な男のほうが好み?」
なに勝手に呼んでるんだ、と鳥肌がたった。
やっぱり中身は別人に違いない、と確信したいぐらい、一ノ瀬くんのイメージと違う。
「幽霊にこんなくだらないこと聞いてるわけね。あと晴ちゃんはやめて」
「じゃあ晴さん?」
「気持ち悪い。もう呼び捨てでいいから」
こいつは、ひとの神経を逆撫でするのが特技なのだろうか。
声の色が見えていたら、さぞかし黄色にまみれているに違いない。
しかし私の嫌悪感は彼には伝わらない。
笑顔のまま、珈琲をすすっている。さっさと追い返したい。
「くだらないことじゃないよ。俺にとって晴は希望だから」
ほらまた軽口を叩く。
と思ったけれど、耳が熱く感じてきた。
その上心臓の音がすぐ近くから聞こえてくる。
彼にこの音が伝わらないように、なんて馬鹿なことを考えてしまって、頭を振る。
希望、ということばが胸を締めつける。
そんなたいそれた人間じゃないのに、私。
「あら、立ち話?」
真後ろから叔母の声が聞こえてきた。
すっかり油断していた。びくっとして振り向くと、ケーキとココアをトレイに乗せてきた叔母が私と彼を見比べる。
「お待たせ。ほら、晴もそこに座りなさい」
断りたかったけれど、叔母の声の色が橙色だったから従うことにした。
なんとなく、がっかりさせたくなかった。
今日は晴れているけれど、外の空気はさすがに寒い。
対して店のなかはとても温かく、良い香りの空気に包まれていた。
ケーキを焼いていたのだろうか、甘いにおいも漂っている。
あとで一切れもらおう。
そう思って店内に出た途端、後ろにのけぞってしまった。
「こんにちは」
軟派な笑顔がそこにいる。
「なんでここが」
店のカウンターで優雅に珈琲を飲んでいる姿が忌々しい。
「幽霊に聞いてみた」
どこの幽霊だか知らないけれど、情報をリークしたやつを恨む。
幽霊を恨むってできるかどうかは別。
「ストーカー」
「酷いなあ、せっかく知り合えたのに」
「そういうことを平然と口にするのが耐えられない」
「晴ちゃんは、無口な男のほうが好み?」
なに勝手に呼んでるんだ、と鳥肌がたった。
やっぱり中身は別人に違いない、と確信したいぐらい、一ノ瀬くんのイメージと違う。
「幽霊にこんなくだらないこと聞いてるわけね。あと晴ちゃんはやめて」
「じゃあ晴さん?」
「気持ち悪い。もう呼び捨てでいいから」
こいつは、ひとの神経を逆撫でするのが特技なのだろうか。
声の色が見えていたら、さぞかし黄色にまみれているに違いない。
しかし私の嫌悪感は彼には伝わらない。
笑顔のまま、珈琲をすすっている。さっさと追い返したい。
「くだらないことじゃないよ。俺にとって晴は希望だから」
ほらまた軽口を叩く。
と思ったけれど、耳が熱く感じてきた。
その上心臓の音がすぐ近くから聞こえてくる。
彼にこの音が伝わらないように、なんて馬鹿なことを考えてしまって、頭を振る。
希望、ということばが胸を締めつける。
そんなたいそれた人間じゃないのに、私。
「あら、立ち話?」
真後ろから叔母の声が聞こえてきた。
すっかり油断していた。びくっとして振り向くと、ケーキとココアをトレイに乗せてきた叔母が私と彼を見比べる。
「お待たせ。ほら、晴もそこに座りなさい」
断りたかったけれど、叔母の声の色が橙色だったから従うことにした。
なんとなく、がっかりさせたくなかった。