京都の冬の朝は寒い。
 
昨日から降り続けた雪が、すっかり積もっていた。
叔母が暮らす上賀茂という地域は、京都駅のある場所よりよほど空気が冷たいらしい。
昨日は地下鉄の駅から出た途端、空気の違いに身震いしてしまった。
 

私の部屋にあてがわれた、二階、六畳の和室。
そこの窓からは賀茂川が見える。
白に覆われた中、中央を流れてゆく川だけが黒い。
 

悪くない、環境だった。
寒いのは大変だけど、とても静かで。

窓を開けて、外の空気を部屋に入れてみる。
肌を刺す風が、私の身体を目覚めさせる。
 
叔母が私に出した条件は三つ。
 
夜更かししても良いけれど、朝は七時までに起きること。
 
食事は三食摂ること。一緒にいるときは一緒に。
 
毎日、ひとつは仕事をすること。家事でも叔母の手伝いでも、宿題でも可。
 

それさえ守れば他はなにも言わない、と叔母は昨日の夕食後に私に伝えてきた。
これからのことはそれだけで、今までのことは一切聞いてこなかった。
両親は「どうして」「なにかあったのか」「話してみて」が口癖のようになっていたのに。
 

難しい条件ではなかったから、私は考えることなく了承した。
食事に至ってはいつも独りだったから、叔母が一緒にと言ってくれたのは寧ろ嬉しかった。
 

両親に愛されていない、と気づいてから、慕ったのはこの叔母だった。
そして叔母はきっと、私と両親のことを知っている。

だからか時折遊びにおいでと誘ってもらい、母と二人でよく京都に来ていた。
母親は、仕事があるのにとか愚痴を言っていたけれど、叔母がいれば私の面倒は見なくて済むので、それで折り合いをつけていたのだろう。

私と叔母だけ遊びや買い物に行って、母は叔母の家でノートパソコンを睨んでいるばかりだった。
 

階下から珈琲の香りが漂ってきた。
飲めないけれど、喫茶店を経営している叔母が丁寧に淹れる珈琲の香りはとても好きだ。


「おはよう、起きた?」
階段の下だろうか、叔母が大きめの声で言う。
携帯のディスプレイを見ると、七時ちょうどだった。

「うん、おはよう」
聞こえるようにと声を張って、それから窓を閉めた。
寒かったけれど、気持ちよかった。

明日はもう少し早く起きてみよう。
今日観察してみて、河川敷に人が多くなかったら散歩してみるのもよいかもしれない。