8:25 予鈴が鳴る。

それと同時に私は教室に入った。
その瞬間、拍手や、こそこそ話をする声か聞こえる。

教室の外には
理事長の文子さん(真結子先生のお母さん)が
バインダーとボールペンを手にこっちを見ている。

荷物を置き、トゥシューズの紐をきつく結び直す。
ケープを脱ぎ、ピンクと黒の、
お嬢様チックで可愛いレオタード姿になる。

客前に出る時は
必ず ティアラをする決まりになっていた。

準備は完了。
今日も完ぺき。

柔軟も十分な程して来ている。

バーにつま先を引っ掛けて、上半身をバーの方へ倒す。
その瞬間、黒く大きな何かが、バーの下をくぐり抜けた。

『なに?!』
びっくりして、足を下ろした時
理事長先生の怒鳴る声が聞こえた。

『どんな躾をしていらっしゃるのですか!!!!
海美が怪我したら、あなたはどうやって責任を取るおつもりですか?!!!!!!!
今すぐ、帰りなさい!!!!!』

『申し訳ございません。二度と目を話しません。
見学だけ、させてください。
ここに子供を入れるのが夢なんです。』
『どうか、見逃していただけませんか??』
両親が、理事長先生に深々と頭を下げる。

ーーー今度はレッスンに邪魔が入るかもしれない。
そう思うと、私は居ても立ってもいられなくなり

『帰ってください。迷惑です。』
気付くと、頭を下げる両親にそう告げていた。
レオタードの裾が引っ張られている。
感覚のある方に目を向けると
歯に矯正の器具をつけ
眼鏡をかけた女の子が
にこー。っと笑っていた。

こいつだ。邪魔をするのは……

『おばちゃん。怒るとしわできるぞ?』
私に向かって、女の子はそう告げた。

ブチっ……
何かが頭の中で切れた気がした。
『早く帰れ!!!!!ふざけんな!!!!!!』
自分でも驚くほどに大きな声で叫んでいた。